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非結核性抗酸菌によるやっかいな感染症の治療法を見つけたい
打矢惠一(薬学部・薬学科・教授)
- 公開日時:2022.11.07
- カテゴリ: Mycobacterium avium 薬剤感受性 VNTR型別解析 肺MAC症 薬剤抵抗性 ISMav6 ゲノム解析 pMAH135プラスミド
研究情報
期間 |
2015~2019年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
15K08049 |
課題名 |
非結核性抗酸菌症の病態および増加要因の解明とその臨床応用 |
期間 |
2019~2022年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
19K08966 |
課題名 |
肺MAC症の増加要因と抗菌薬に対する治療抵抗性の解明 |
取材日 | 2022-06-20 |
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結核に代わって世界的に増えている非結核性抗酸菌(NTM)による肺の感染症、肺NTM症の研究をされている薬学部・薬学科の打矢惠一教授にお話を聞きました。
爆発的に増えているのに効果的な治療法がない
科研費の研究の背景を教えてください
2012年度、2015年度、そして2019年度に採択された科研費は基本的に同じ研究テーマです。みなさんもおそらく聞いたことのある結核菌は肺結核を引き起こす細菌です。肺結核は昔からある病気ですが、ここ最近はしばらく減少傾向にあります。私の研究している非結核性抗酸菌はその結核菌と同じ仲間になります。結核菌は人に感染して病気を引き起こして人のなかで生き延び、環境中に放り出されると死んでしまうような細菌です。一方、非結核性抗酸菌は100種類以上存在し、環境中に存在して、まれに人に感染して病気を引き起こします。これらの細菌の英語表記(non-tuberculous mycobacteria)の頭文字を取って、非結核性抗酸菌はNTMと呼ばれ、これらによる肺の疾患を肺NTM症と呼んでいます。図に示すように、この肺NTM症が近年すごく増えてきて、今では罹患率が肺結核を逆転するほどになっています。
肺NTM症を引き起こす細菌はたくさん存在するのですが、特にアビウム菌とイントラセルラーレ菌という二菌種が大半で、この二菌種を総称してMAC(マック)と呼んでいます。肺NTM症はアビウム菌・イントラセルラーレ菌以外の非結核性抗酸菌による感染症を含みます。肺MAC症は肺NTM症の約9割を占めていて、さらに確立された治療法がないので非常に問題になっています。また、治療期間が1年以上と長く、症状を抑える薬はあるものの、治癒を期待できる薬はないというのが現状です。症状によっては手術をするケースや、最悪の場合は重症化して死亡するケースもあります。
結核菌による肺結核は、排菌がある場合には国の法律でちゃんと入院して治療を受けなければならないと決められていますが、この肺MAC症についてはそこまでの規定がありません。また、肺結核はやっかいな病気ではあるものの、抗菌薬を投与すれば完治させることがほぼ可能です。ところが、肺MAC症は患者数が増えてきていているのに肺結核のような効果的な治療法がありません。
加えて、肺MAC症は感染経路もよくわかっていません。細菌自体は土壌や自然の水辺など、環境中のどこにでも存在するありふれた細菌なのですが、誰がいつどのように感染するのかがわかっていないので、感染の予防が難しいんです。しかも、感染した人のうち、どれくらいの人が発症するか、いつ発症するかもわかりません。結核菌は感染するとほとんどの人に症状が出ますが、肺MAC症は発病する場合としない場合があります。ただ、感染したときに発病しなかったとしても、ずっと細菌を保持している状態なので、免疫が低下したときに発病することもあります。海外よりも日本での感染者が断トツに多く、特に50~60代の女性の患者さんが多いのが特徴ですが、これについても理由は解明されていません。検査方法が確立されていなかったゆえに、以前は見逃されていたと考えることもできるのですが、それを差し引いても患者数が爆発的に増えてきています。理由がわからないんです。こういった多くの問題を解決したいというのがこの研究のベースにあります。
肺NTM症に注目されたきっかけはなんですか
国立病院機構東名古屋病院の先生方と長年にわたり共同研究を行っており、その先生から最近肺NTM症が増えてきているけれど、わからないことが多いんだと相談されたところから始まりました。治療効率は高くないし完治もなかなかしないと聞いて、その当時はそれほど知られていなかったために、NTMと言われてもいまいちピンとこなかったのが正直なところだったんですが、そういった声が臨床から聞こえてきたというだけで、研究を始める十分なきっかけになりましたね。結局、このことが日本における肺NTM症の先駆的な研究につながり、2019年に日本結核病学会(現・日本結核・非結核性抗酸菌症学会)の今村賞を受賞することができました。
具体的にはどのように研究を進められたのですか
まず、東名古屋病院で分離されたNTMの遺伝子的な解析をおこないました。その結果、世界に先駆けて肺NTM症を引き起こすアビウム菌のゲノム(DNAの遺伝情報)の全塩基配列を決定することができました。さらに病原性や薬剤耐性遺伝子をコードした(作っている)新規のプラスミド(染色体とは別のDNA)を発見しました。その後、全国の病院からも菌株を集めて、重症化した患者さんの細菌とそうでない患者さんの細菌のゲノムを比較することで、それぞれにどういった特徴があるかがわかってきました。たとえば、重症化した患者さんの細菌は、我々が発見したプラスミドなどを持っていることがわかりました。加えて、海外で分離されたアビウム菌はこのプラスミドを保有していなかったので、わが国における肺NTM症の増加要因がこのプラスミドであることがわかりました。新型コロナウイルスにおいても同じなんですが、ゲノム解析と言って、細菌のゲノムの塩基配列を調べて比較すると、人に病気を引き起こすような細菌は特徴的な遺伝子を持っていることがわかってきます。
NTMは肺結核のように人から人へ感染しないので、あまり重要視されていないところがあります。肺結核と似た症状があるので、実際には、患者さんの痰を採取して細菌を培養することでしか確定診断ができません。肺結核疑いで検査してみたら肺NTM症だったということもあります。
2019年度からの研究は次のステップに移りました。今度は効果的な治療法がないというところに焦点を当てて研究を進めています。感染症によく使われる抗菌薬はあまり効きません。効かない原因は果たして何なのかということを調べています。
また、抗菌薬をたくさん投与すると耐性菌が出現します。抗菌薬の投与期間に応じてどういった耐性菌が出現して、それにはどんな特徴があるのかを患者さんの治療履歴を見て調査することで、臨床にフィードバックしたいと考えています。さらには、薬学部の先生方と共同で新規の治療薬の探索や耐性菌の迅速検出法の開発にも取り組んでいます。
学生時代から研究者になろうと思っていましたか
そうですね、薬学部なので薬剤師という道もあったんですが、研究者になりたいと思った理由で一番大きいのは、未知のこと、わからないことがわかるというのがおもしろいということでしょうか。なぜ感染症を専門にしたのかについては、正直に言うとあまり思い出せないんですよね。わからないことが少しでもわかるようになれば、おもしろいだろうとそこしか考えていなかったのかもしれません。
褒められるとうれしいし評価されるとモチベーションがあがる
科研費についてのお考えを聞かせてください
今まで欠かさず申請していますね。科研費はやはり研究内容がどの程度評価されるんだろうかということが一番気になります。たとえば、今ある疑問点をどういったステップで解決していくかを申請書に記載したとして、それぞれ見方の違う審査委員がどの程度それを評価するのか知りたい気持ちがあります。それで採択されたら、研究をもっとがんばろうという気持ちになりますね。それだけ重要視してもらえるのであれば、もっとがんばろうとモチベーションがぐっと上がります。自分が申請したものに対して、これなら研究を進めるのに値すると国が認めてお金をもらえるということなので、研究を行う上で心の支えの1つになります。
ただ、申請書作成にはいつも四苦八苦していますね。とにかくわかりやすく書こうとは心がけています。私もまったく専門外のことを説明されたときに、よくわかったと思うときとなんだか難しかったなで終わってしまうときがありますし、前者になるようには文章でどう表現すればいいのかを考えます。あとは、だらだらと書かれていて何を言っているのかわからないと、読む側としては「ま、いいか」となってしまいますよね。だから、人にいかに興味を持ってもらうように書くか、専門外の人にもわかってもらえるような表現でわかりやすく書くかということを何よりも重要視しています。
名城大学は学内研究費に恵まれているとよく言いますが、研究の内容によっては、いろいろな試薬など、実験のための費用が高額になるので、やはり学内研究費だけでは足りなくなってきます。科研費などの自由に使えるお金があると非常に助かります。でも、やはり一番は研究内容が評価されるというのが大きいです。人って単純なもので褒められるとうれしいし、評価されるとモチベーションはあがるものです。それが素晴らしい研究に繋がるならとてもいいことですよね。
あとは、申請書に研究計画を記載するとなると頭のなかが整理されていないといけません。今までは漠然と進めていたものをちゃんとした文章にしようとすると、まずこういう実験をして、その後こうすればいいのかなというような具体的なスケジューリングが必然的にできるので、頭のなかの整理ができます。元々頭のなかにはあったものですが、アウトプットすることで整理がつくと同時に、必然的にやらざるを得ない状況に自分を置くこともできますね。とにかく、私個人としては、せっかくの国が与えてくれた機会だから申請しないともったいないなという感覚ですね。
関連リンク
- researchmap
https://researchmap.jp/Keiichi-Uchiya - 科学研究費助成事業データベース(2015-2019)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K08049/ - 科学研究費助成事業データベース(2019-2022)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K08966/