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研究成果トピックス-科研費-

ゲームから広がる新しいかかわりと学び

田口純子(都市情報学部・都市情報学科・准教授)

公開日時:2022.10.24
カテゴリ: 情報デザイン ゲーム 不登校 PBL 建築教育 まちづくり 学習支援 都市計画 地域保全 保全

研究情報

期間

2020~2022年度

種目

基盤研究(B)

課題/領域番号

20H04468

課題名

オンラインゲームと社会を結ぶPBLを通したメンタライジングの発見と支援

取材日 2022-05-26

建築教育・都市環境教育が専門で、バーチャル環境も含めた建物やまちの学びと社会を結ぶ実践的研究をされている都市情報学部・都市情報学科の田口純子准教授にお話を聞きました。

ゲームを入口にお互い自然に学びあう

科研費で今まで行われていた研究とこれからの予定を教えてください

まず、1つ前の挑戦的萌芽研究のことからお話しますが、私は元々の専攻が建築学で、建物の保存や地域住民からなる保存団体の支援、また、建物に対して広く一般に関心を持ってもらうための教育を専門に研究してきました。ただ、建物の保存や教育と言っても、実際は関心のある限られた人しか集まってこないんです。ワークショップを開催しても歴史好きの人たちしか参加しないんですよね。

 

そんななかで、萌芽研究のきっかけになったのが「マインクラフト(サンドボックス(砂場)と言われるジャンルのゲームで、100種類を超えるブロックを組み合わせることで様々なものを作り上げることができる)」というゲームでした。出会った子どもたちのなかに、このマインクラフトが大好きで打ち込んでいる子たちがいて、ものすごく高いクオリティの作品を作っているんです。自分たちの仲間、つまり、インターネットを通したゲームユーザーやファンの世界のなかでしか公開されていなかったポテンシャルを、なんとか社会に結びつけられないかと考えたと同時に、建物の保存や教育に関心がある人が限られてしまっているという課題解決にもつなげられないかと考えました。

 

そこで、マインクラフトに打ち込んでいる子どもたちに地域のシンボル的な建物や街並みを作ってもらうという活動を始めました。初めは彼らもマインクラフトがおもしろくて参加するんですが、建物を作りこむためには、その建物のことをよく知る必要があることに気づいて、細かく調べるために実物を見に行こうとか、その建物の歴史を知っている人に話を聴こうとか、自然とそういうことを言い始めるんです。入口はゲームだったものの、建物や地域自体に自然と関心が向き始めていきました。対してその地域や建物に関係する人たちは、今までと違った方法で建物の楽しみ方や表現方法があるんだという新しい魅力を発見することになりました。

 

マインクラフトに長けている子は非常に精度の高いモノ作りをします。図面がなくても写真を見ながら一気に作り上げてしまうので、リアルな建物や地域の興味には関係なく、バーチャルな建物を作りあげてもらうだけでもおもしろいかなと最初は考えていました。しかし、実際始めてみると、マインクラフトをほとんどやったことがないけれど、放課後にみんな集まってやっていて楽しそうだから参加したいとか、おばあちゃんからよく話を聴いていてすごく思い入れがある地域だから参加したいという声があがってきました。ゲームを入口にしたプロジェクトでしたが、そのゲームに長けた子たちだけではなくて、ちょっと属性の違う子たちも周辺に集まってくるというミックスになったことは結果的によかったですね。当初意図したことではなかったものの、従来の建物の保存や教育をテーマにした活動ではお互いに出会えなかった人たちが出会って、最終的に自然に学びあっているというような状態を作り出すことが、挑戦的萌芽研究の一番の趣旨になりました。

 

マインクラフトは元からお好きだったんですか?

いいえ、全然やったことがなかったんです。不登校の子どもたちへ教育プログラムを提供する研究室に在籍していた時に初めて知りました。学校になじめていない子どもたちの多くがマインクラフトをやっていて、力の発揮どころや仲間を探しているという状態だと聞いて、とりあえずやってみようということになりました。やりだしたらおもしろかったですね。私は少しだけプログラミングも入れながら東大の安田講堂を作ったんですが、その子どもたちに「おもしろいじゃん」と認めてもらえました。建築の知識はあるし、マインクラフトのスキルに関しては子どもたちが持っているので心配ないなと思って研究として始めました。その後は対象を広げて、ゲームが好きな高校生に参加してもらいました。

 

自分の世界にいる子どもたちをそこから引っ張り出して、外に向かってもっとコミュニケーションさせようとするのではなく、彼らの好きなことで力を発揮してもらおうという意図で始めたことがいい効果を生みました。本当に好きなことで力を発揮したり、仲間を作ったりするということが、方向性を少し変えてあげるだけで、車で言うと少しだけハンドルを切っただけの感覚なのに、地域や社会とつながっていくんです。建物の保存や教育の研究をしている私たちにもありがたいことですし、マインクラフトをやっている子たちも自分たちのやっていることに関心をもって認めてくれる人たちがいる、しかも、ゲームファン以外の人たちが関心を持って一緒にやってくれるというのがいいですよね。ゲームをやっていると言うと、ネガティブな印象を持つ人もいると思いますが、「遊んでないで勉強しなさい!」と言われたら、「今プロジェクトの仕事中だから邪魔しないでよ」くらいのことを子どもたちには言って欲しいなと思っています。

 

ご専門の建築と不登校はどうやって結びついたんでしょうか

建築と教育をテーマに博士論文を書いて学位を取り、その後に教育に関する研究室に入りました。不登校の子どもたちの学びを主に研究しているところだったので、建築に全く関心のない人たちに出会わざるを得ない状況になりました。出会う人たちはみんなそこそこ建築に関心があるという建築学の世界から、まったくそれが通用しない世界に入って、建築から来たお前は何ができるんだと言われたような感覚になりました。今まで当たり前だと思っていたことが全然そうじゃなくなって、すごく大変だったんですけど、そのおかげで新しい研究分野が開けましたし、科研費に挑戦しようという気持ちになれましたね。

オフラインの価値を再認識

オンラインゲームなのでコロナ禍の影響はあまり受けないのかと思いましたが

いえ、それが、基盤研究(B)ではかなり影響を受けることになってしまいました。私もオンラインで一人ひとりが家にこもっていてもサーバーに入ることができれば問題ないと思っていたのですが、結局コロナ前にやっていたことというのは、放課後活動だったり、合宿だったりしてFace to Faceなんですよね。多分もっとうまくオンラインでやる方法があったのかもしれないですが、困ったときに手伝ったりとか、エラーが起きた時に状況を把握したりとか、そういったチーム感のようなものはすごくオフラインでカバーしていたんだということを思い知らされましたね。

 

ただ、バーチャルであるからこそ、オフラインの接触が一層大事なんだとも思いました。地域の人との繋がりはオンラインだけでは得にくいものがありますし、むしろSNSなど自己発信の場がインターネットにいくらでもある世代の人たちは、リアルなものや自分が接する範囲の人たちと価値を共有することを求めるように感じています。私などもう少し上の世代はすぐにSNSで目の前で起きていることの価値の共有をしたがるけれど、学生と話をしていると、「ここで今共有したからつぶやく必要なくない?」と言われてしまうことがあります。そういう世界が身近に広がっているからこそ、彼らはオフラインの価値を求めるのかもしれないですね。

 

オフラインの活動ができなかった期間に、そういった分析や成果の整理をしつつ、ゲームが私たちの社会生活に及ぼす影響を調査しました。稲作のプロセスが非常にリアルということでかなり話題になった稲作のシュミレーションゲームがあるんですが、そのユーザーにオンラインアンケートを実施しました。全農広報部が攻略のために実際の稲作の解説冊子を薦めるツィートをしたり、農林水産省がゲーム開発者を取材したりするほどのクオリティなので、「稲作の大変さが分かった」「農家に感謝するようになった」「実際にコメの消費量は上がると思う」などの回答がありました。

 

ただ、この結果をすごく正直に見ると、農業関係者側の期待がゲームユーザーの期待を上回ってしまうんですよね。農業に関心を持ったり就農に繋がったりというところまで農業関係者側では期待してしまうんですが、実際には関心を持つことは持つけれど、それ以上の効果は期待ほどではないんですよね。これは最初の建築とマインクラフトの話でもそうで、マインクラフトを入口に建物や地域に関心を持ち始めるんですけど、こちらがあまり欲を出すと、やっぱりこちらの期待が実際を大きく上回ってしまうので、純粋にゲームを楽しめている状態がすごく健全なんだなと思えるようになりました。ただ、普段全く手の届かない人たちが、ゲームやネット、バーチャルを通じて、好きなことに打ち込んでいたら、いつのまにか建物や農業に関心を持っていたということが少なからず起きるんだ、ということもわかりました。

 

当初の計画からはかなり進行が遅れてしまっていますが、今、岐阜県郡上市のある地域と連携を始めていて、今後は地域に根差したプロジェクトを組んで進めていけそうです。

 

科研費についてはどうお考えですか

名城大学は学内研究費に恵まれているとよく耳にしますが、これはよい意味でストレスフリーにつながっています。他大学では外部資金を獲得するため、特に若手は仕事の大部分を割いて申請書を書いているということも耳にしますので、そういった意味で非常によい環境だと思っています。ただ、科研費は大学を超えたネットワークで研究をしたいと考えたときには必要となるものだと思っています。お互いの業績にもなりますし、科研費が1つのボンドになるというイメージがあります。

申請書を書くのは大変だし難しいし、今でも苦手なんですが、自分の研究領域ではない人にもわかってもらえるように書く必要があるので、それは本当に自分のためになっていると思います。先程の建築学の世界からまったくそれが通用しない世界に入ったときと同じように、自分の分野の言葉だけで書いているとわかりにくいことがあるので、そこの工夫は大事にするべきだと思っています。あとはシンプルにやりたいことが伝わるように書くことを心がけています。


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