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研究成果トピックス-科研費-

マイクロサイズで見る世界

市川明彦(理工学部・メカトロニクス工学科・准教授)

公開日時:2022.10.21
カテゴリ: マイクロロボット バイオマイクロ 腸内フローラ 磁気駆動ロボット マイクロシステム 微細加工 腸内細菌 マイクロバイオ

研究情報

期間

2019~2021年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

19K04316

課題名

腸内フローラ解析のための腸内細菌回収磁気駆動体内カプセルロボットの研究

取材日 2022-04-20

腸内の細菌を回収するカプセルロボット実現を目指しておられる、マイクロ領域研究の理工学部・メカトロニクス工学科の市川明彦准教授にお話を聞きました。

腸内フローラをそのままの形で取り出したい

科研費の研究内容を教えてください

簡単に言ってしまうと、磁気で動くロボットを使って、腸内フローラを探索するという研究ですね。腸内フローラという言葉は最近よく耳にされると思うんですが、腸内の微生物というのは、迷信ではなく実際にちゃんと免疫効果や体調を改善する効果があるんじゃないかと言われています。でもまだよく分かっていない部分が多いので、それを調べるためのロボットを開発しています。

 

まず、大きさのイメージなんですが、人間の髪の毛は約100ミクロン(0.1ミリ)、微生物は約1ミクロンから数ミクロン、ウィルスは約0.1ミクロンです。いわゆるマイクロ領域と呼ばれるのは0.1ミクロンから0.1ミリの範囲で、その中の代表例が細胞や微生物になります。人体はだいたい40兆個くらいの細胞で構成されていると言われていて、それが人間のすべての機能を作っています。対して、腸内微生物は諸説あるものの100兆匹ほどいると言われていて、その重さは1~1.5キロにもなります。

腸内フローラは、腸内でお花畑のように広がっているコロニーのことです。そのコロニーは善玉菌2割・悪玉菌1割・日和見菌7割で構成されていて、それぞれ体内環境を改善したり、睡眠をよく取れるようにしたり、逆に毒素を出したり、特に何もしなかったりすると言われているものの、どの部分にどんな風にコロニーを作っているのかは実はよく分かっていません。

 

最近、腸内フローラ検査キットという、PCR検査で便を調べるサービスがたくさんありますが、あくまでも便の中の微生物の数を調べているので、それらが腸内でどんなふうに存在するのかまでは分かりません。腸内に存在する微生物の種類と割合が一緒だったとしても、コロニーのでき方によってその効果は違ってくるのではないかと考えられているものの、健康な人のお腹を切開して腸を取り出すわけにはいきませんよね。胃カメラや大腸カメラでは小腸に行き着くことがとても難しいうえに苦痛が伴います。それを人体にダメージを与えずに、できれば腸内に存在するそのままの形で取り出せないかということです。

今はどんどんロボットを改良しているところです。大きさは徐々に小さくして、大きめの錠剤サイズにまですることができました。磁石を使って腸の壁に接触して腸内フローラを回収するんですが、だいたいコロニー180個分くらいは回収できます。回収範囲をさらに広げるために、いろいろな機構を考えているところです。

 

現在、免疫の70%は腸内で管理されているのではないかと考えられています。昔からよく言われている、これを食べると健康効果がある!というようなことは、あながちウソではなくて、特に日本人が昔から食べている漬物に含まれる植物性乳酸菌が、どうも体内でいい作用をもたらしているのではないかと言われています。ただ、これも個人ごとに大きく異なるので、各人の腸内環境が関係していそうです。それをこの研究を通して調べることができればいいなと思っています。

 

なぜ腸内細菌に注目されたのでしょうか

私は昔から小さなもの、先程言ったマイクロ領域を扱う研究をしています。地球の果てとか北極、海底、成層圏なんかにまだ知らない有用な微生物がいるかもしれないと思うと同時に、すごく身近にある腸内のこともよく分かっていないなと。腸内細菌は確かに存在しているし身体にもよいというけど、実際調べてみるとよく分かっていないことが非常に多い。細菌は種類も多いし、個人によって腸内フローラの形も違って善玉菌・悪玉菌の数も違うので、単純に面白いなと思いました。具体的には、名古屋大学医学部の先生と腸内細菌を調べる装置を作ったら面白そうだねという話になったのがきっかけになりましたね。

 

将来的には、体内の微生物の状態が分かれば、個人それぞれに合うものが提案できるのではないかと思っています。それで、花粉症がなくなったり、ハウスダストに強くなったり、痩せ型になったり。体内に1.5キロもいる微生物が何かやっているんだろうと予想していますが、それを解明できると非常に面白そうです。身体によいといわれている微生物を口から摂取しても胃酸で死んでしまいますが、死骸であってもよい効果があるのではとも言われているんですよ。


小さなものを研究するようになったきっかけはありますか

レーザーを使った光ピンセットで微生物1匹を捕まえる、という研究をされている先生に大学で出会って、マイクロサイズの話ってすごく面白いなと思いました。世の中に残っている生き物は、もちろん人間もたくさんいますが、数でいえば微生物もたくさんいます。細胞も微生物も大きさは数ミクロンから数十ミクロンの範囲に収まっていますが、そもそもなぜこのサイズが生き残ったのか、もっと大きいサイズは生まれてこなかったのか、昔から同じものがずっと残っているのか、などの疑問があって、マイクロ領域に秘密があるんじゃないかと考えています。

 

小さい細胞があるおかげで、人は隅々まで栄養を生き渡らせることができるし、自由に動けて考える脳もあって、壊れると修復もできてしまう、とてもじゃないけど今のロボット技術だと再現できません。小さいものってすごく効率よく動いているんです。大きさが変わるだけで機能が変わることをスケール効果というのですが、大きさの違いを利用して活動しているんじゃないかと思っています。細胞や微生物がどうやって効率よく生きているのかを解析できれば、ロボットに応用したり、発電に生かせたり、そういうことがやれないかと思ってこの領域にこだわっています。

これがあれば世の中はよくなるのでは

科研費についてどう思われていますか

今はどちらかというと、実用研究や企業と共同のマッチングファンド形式のものがすごく多くなっていますが、基礎的なものを調べる研究をコツコツやっていくことも、長い道のりではあるけれど実用化へ向けて大切なことだと思っています。しっかり科研費で基礎研究をして、それを応用して社会実装に繋げられればという思いを持っています。

 

税金を使っている以上、実用化はもちろん必要なことだとは思っています。でも、研究は失敗してはいけない、不可能に近いことに挑戦すると成果が出ないのでイヤだ、と言われたりしますが、それについては疑問を持ちます。私は敢えて不可能かもしれないと思うものを自分のテーマにしています。それにチャレンジする意味でも、科研費に申請し続けていますね。科研費はそういう研究を受け入れる度量があると思います。うまくいかなかったからといって、その研究自体が無意味というのではなく、どういう原理だったのか、なぜダメだったのか、ということも知識として持っておくことが大事だと考えています。

 

あとは、今後の研究の方向性を考えるいい機会だと思っています。仮に不採択になっても無駄にはならないし、世の中のトレンドに目を向ける機会にもなります。自分の研究をどういう方向に持っていったらよいかだけでなく、こういう研究があれば世の中はどうなるだろう、こんなものがあれば世の中がいい方向に向かうんじゃないか、などの考えをまとめるうえでも科研費の申請は効果的じゃないかと思っています。

 

申請書で工夫されていることはありますか

文章を書くことについてはかなり気合を入れてやっていますね。どうやって伝えれば、相手に自分と同じイメージを持ってもらえるかというのを重視しています。文章を読んでいくと、頭の中で絵が描かれていくような、そういうイメージがわくように書くようにしています。どのように理論を文章化すればいいかはまだまだ難しいところですけれどね。


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