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研究成果トピックス-科研費-

精神疾患の新たな治療薬とヒトへの応用に向けて

間宮隆吉(薬学部・薬学科・准教授)

公開日時:2024.04.30
カテゴリ: バイオマーカー ストレス PTSD 脳機能 精神疾患

研究情報

期間

2015~2018年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

15K08218

課題名

自発的運動によって活性化される脳内分子のレジリエンス亢進作用の解明と応用研究

期間

2022~2025年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

22K06655

課題名

独自PTSDモデル動物を基盤とした新規治療薬と発症予測バイオマーカーの開発

取材日 2024/03/22

記憶とストレスの関係性と薬の効果について研究されている、行動薬理学が専門の薬学部の間宮隆吉准教授にお話を聞きました。

新しいキーワードを見つけて自らの研究と絡める

科研費申請への取り組み方について教えてください

大学は研究教育機関ですので、先生方は何かしらの研究をされていると思います。そのうえで、申請した研究内容が科研費に採択されるということは、それなりに必要な研究だとお墨付きをいただいたということで励みになります。かつて、恩師に科研費の採択率は、たとえば基盤研究(C)であれば、だいたい3割程度なので、3回申請して1回は採択されないと、研究者としての適性も考えないといけないということを言われました。そう考えると、研究者という立場は危ういものですね。

 

不採択だった場合、その次の申請はどのように挑みますか

以前に連続して採択された研究分野が再編されて無くなってしまって、ここ最近はどの分野に提出するかに苦心していました。何度か分野を変更して、ようやく今回、3,4年ぶりに採択されました。私はずっと『ストレス』をキーワードにして研究を進めてきたので、医学系や薬学系のストレスの分野で申請してみたのですが、うまくいきませんでした。そこで、臨床応用や社会実装などを加えました。今求められている方向性を考えてみると、動物実験だけをやっていても難しい。もちろん、薬の開発研究の薬効評価は、細胞に続いて動物実験から始まります。でも最終的にはヒトで確かめる必要がありますし、ヒトにも応用可能な部分を加えてみようと思いました。具体的には、採取した血液で疾患の診断や予測ができるバイオマーカーの開発を盛り込みました。それを薬理学の分野で申請したところ、無事に採択されたので、基礎研究がどこまでヒトへ応用が可能かを考えることと、分野の選択は重要ですね。

 

ちょうど科研費を申請する時期は、通常の講義のほかに薬剤師国家試験対策の講義も集中して入ってきます。作文力というか国語の能力が芳しくない私にとっては、限られた時間のなかで申請書を書くのはとても大変ですが、研究を進めながら、常に将来どのように発展させるかを考えています。毎日ニュースや新聞を読んだりして社会情勢やトレンドを把握し、自分の研究と絡めていくことも大事だと思っています。

 

 

マウスからヒトへ

科研費の研究について教えてください

「自発的運動によって活性化される脳内分子のレジリエンス亢進作用の解明と応用研究(2015-2018)」では、運動することで病気を予防するエビデンスが得られないかと考えました。不安障害のような行動を示すマウスを、回転かごを設置したケージ内で飼育すると、症状が和らいだり、脳内で神経栄養因子が増えたりしたので、やはり運動は心身ともに好影響を与えるのだということがわかりました。ほかにも体内時計の乱れを改善すると、情動機能障害が緩和されることなども見出しました。情動性の疾患を改善するためには、生活環境や体内時計がカギになりそうだということを数値で示せました。でもここでこの研究は切れてしまいました。2年前に採択された「独自PTSDモデル動物を基盤とした新規治療薬と発症予測バイオマーカーの開発(2022-2025)」は、認知症研究がきっかけです。私が学部生や大学院生の時に所属した研究室では、既に認知症治療薬の開発研究が進められていて、それに興味を持って入室しました。

 

認知症は記憶力が低下して、過去の出来事を思い出せなくなったり、新しい出来事を覚えられなくなったりします。一方、私たちは普段の生活で、悲しいようなつらいようなイヤだった出来事だけはやたら覚えている時があります。相当良い記憶であればそれも覚えていますが、イヤな記憶の方がズルズル覚えている傾向が強いように思ったんです。その時、なぜイヤなことはずっと覚えているんだろうと疑問を持ちました。心身に影響を及ぼすくらいにその出来事を覚えていると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)となる。ある事象に対して、ポジティブ、ネガティブあるいは中間の感情が付随すると、その記憶の定着の強さが異なるということです。PTSDは生死に関わるような強烈な記憶から引き起こされるもので、思い出してしまうと震えが続いたり、普段しないような行動をしたりしてしまう。2008年にシカゴ大学に留学した時に、ダウンタウンの端で目にした退役軍人の姿や、阪神淡路大震災や東日本大震災後にPTSDで苦しまれている患者さんの様子を見て、より一層、PTSDを克服するお手伝いをしたい、治療につなげたいと感じました。

 

具体的にはどのように研究を進められているのですか

治療薬の開発のためには、まず、PTSDモデルマウスが必要です。海外、特にアメリカではベトナム戦争後の退役軍人のPTSDは1980年代には既に社会問題となっていて、研究が盛んに行われてきていました。でも良好なモデル動物はいませんでした。このことを留学先のボスに話をして、試行錯誤をしてきました。

 

すごく疑問だったのは、大震災を経験していても、PTSDを発症する人としない人がいるということです。そこで、その違いはその人のバックグラウンドに関係するのではないかと考えました。いろいろと論文などを調べてみると、幼少期の影響があるようで、幼若期のマウスに強いストレスを与えたところ、成熟期にPTSDのような行動を示し、そのマウスの脳をMRIで調べると萎縮が認められました。既存のPTSD治療薬を投与すると状態が良くなるので、そのマウスはPTSDを発症しているのではないかと考えられます。現在は治療薬開発という視点で、このマウスを使って新しい薬を見つけられないかといろいろ試しているところです。さらに、そこからヒトのバイオマーカーにつなげたいと思っています。できる限り自分たちの手で基礎研究の成果を臨床へ応用したいと考えています。民間企業との共同研究を進めるためにも、より精度や再現性の高いデータが必要となっています。そうするためにも試行錯誤しながら進めています。少し遅れ気味ですが、患者の血液サンプルの入手に向けて手続きを進めているところです。

 

 

なぜ黒い小さな粒が腹痛を治すことができるんだろう

薬学部に進もうと思ったきっかけはありますか

「百草丸」ってわかりますか。昔からある黒い粒の胃腸薬なんですけど、小学生の時にお腹が痛くなると親が出してくれました。あの小さな粒を飲むだけで腹痛が治るってどういうことだろうとものすごく不思議でした。苦いけど、なぜこんな小さな粒を飲むだけで治るんだろうって。これが薬に興味を持ったきっかけだったと思います。今も愛用しています。

 

いつ頃研究者になろうと思いましたか

私が在籍していた1990年代後半はまだ薬学部は4年制で、もうすぐ6年制になると言われていました。低学年のころから指導担当の先生に「少なくとも修士課程には進んだほうがいい」と言われていて、大学院には行くことは決めていました。岐阜薬科大学大学院にご縁があり、さらに名古屋大学医学部附属病院で薬剤師として研修をしていたときに、薬剤部長だった鍋島俊隆教授にお誘いいただいて、研究のお手伝いをしたのが始まりだったと思います。縁ですね。

 

当時は 遺伝子改変動物が世に広く出始めたころで、特定の遺伝子を欠損させたり、逆に増やしたりして、その遺伝子産物の機能を解析する研究が盛んでした。それぞれの遺伝子が行動をどのように変化させる役割を持っているのか、ずっと解析をしていました。普通に考えれば、ある遺伝子がなくなってしまったら、なにか困ることが起きそうですよね。でも痛みに関わるような遺伝子をなくしたのに、それほど痛みに対する感受性は変化せず、予想外にも記憶力が向上するということが起きたんです。本当に不思議でした。それと同時にめちゃくちゃおもしろいと思いました。全然予測されていなかったことが、自分の発見をきっかけに、周囲が調べてくれて、真実であることが証明されて・・あの時は本当にうれしかったですね。それまでは、まず、関連論文を読んで、ストーリーを考えて、仮説を立てて、証明するというレールを敷く作業をして、その通りの答えが出れば「おめでとう」という感じでした。今までは実験前から論文のストーリーがほぼ決まっていたんですけど、そういう考え方が完全に覆っちゃった。効率は相当悪いかもしれないですけど、私のような凡人でも、こういう点で研究を続けていけそうだと感じました。

 

 

いろいろな方法で薬剤師や薬学部の意義を示したい

社会貢献についてはどのようにお考えですか

科研費の研究成果を小中高生に体験してもらう「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」に9回採択されました。当初は大型の研究をされている方のための企画分野と勘違いしていて尻込みしていたのですが、当時学術研究支援センターにいらっしゃった職員さんに勧められて始めました。短時間で安全に子供たちに体験してもらうことは非常に難しいですが、研究成果を公開する1つの良い機会ですので、本学からも多くの先生に申請していただけたらと思います。

 

科研費からは離れてしまいますが、出前講義も積極的にやっています。小学校に訪問して、実験しながら薬の正しい飲み方を伝えています。その際には、自分のことだけでなくほかの薬学部の先生の研究についても触れるようにして、名城大学をアピールしています。将来、薬剤師や薬学研究者を目指して、名城大学薬学部を志願してくれる子供が増えるといいなあと願っています。

 

 

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