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研究成果トピックス-科研費-

文化の多様性がイノベーションを生み出す

近藤敦(法学部・法学科・教授)

公開日時:2023.05.15
カテゴリ: 多文化共生 インターカルチュラリズム 統合政策 人権条約 移民政策 外国人の人権 自治体 差別禁止 憲法

研究情報

期間

2015~2019年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

15K03125

課題名

移民統合法制の比較研究ー多文化共生法学の実証

期間

2019~2023年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

19K01290

課題名

国と自治体の多文化共生の比較研究―インターカルチャリズムとしての多文化共生法学-

取材日 2022-04-21

 

憲法や国際人権法がご専門で、『国際人権法と憲法ー多文化共生時代の人権論』『多文化共生と人権ー諸外国の「移民」と日本の「外国人」』などの著書がある法学部・法学科の近藤敦教授にお話を聞きました。

 

 

異なった文化を持つ人たちが交流し相互に影響し合う「インターカルチュラリズム」

まず、ご自身の専門について聞かせてください

私の専門は憲法や国際人権法で、特に外国人の人権がテーマです。『多文化共生』という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、2006年に総務省が「地域における多文化共生推進プラン」を策定し、愛知県や名古屋市もそれに則ってそれぞれ多文化共生推進プランを策定しました。そのプラン作りに関わっています。また、法務省管轄の外国人居住者向けのアンケート調査にも携わっていますね。ほかには、外国人の人権に関する係争が起こった際に意見書を作成することもあり、私の意見が取り入れられている判決も出ています。国や自治体に貢献することで、自分の研究が外国人の人権保障を進める一助になっていると考えています。

 

国の政策や自治体の施策について、多様な区分や多面的な分野で国際比較もしています。そのなかで日本が特に対策の遅れている分野は「差別禁止」で、現状法律もありません。そこには外国人だけでなく、障害のある人、高齢者、女性、性的少数者、部落差別など実に多様な問題があります。多様なマイノリティの人々が対等な関係で差別されない社会を作るにはどうすればよいか、様々な分野の研究者と一緒に、本学の「ダイバーシティリサーチセンター」で研究しています。愛知県は多文化共生推進プランだけでなく人権推進プランの策定を進めているので、そこにこの研究が生きてきます。

 

科研費の研究内容について教えてください

多文化共生政策は、諸外国では「移民統合政策」と呼ばれることが多いです。「移民統合政策指数(MIPEX)*1」と言って、各国の外国人の権利保障についての調査が今まで5回実施されています。年々参加国が増えて現在は56カ国が参加しています。日本も途中から参加して日本のレポートを私が書いています。元々はEUを中心に実施されていたものですが、その結果を見ると、日本は平均より低く下位グループに属しています。日本の外国人の権利保障はそういう状況なんです。

 

理由としては、そもそも日本に居住している外国人の割合が低いことがあります。割合が少ないので、法整備して備えようとする意識が低い。だいたい先進国では統計上「移民=外国生まれの人」として算出します。OECD(経済協力開発機構)*2加盟国では、高いところでは人口の30%、平均で10%は外国生まれの人です。対して日本は「外国生まれの人」のデータを取っていないので、正確なところはわからないのですが、居住外国人の割合で言えば、2%程度にとどまります。

 

日本政府が外国人の権利保障にあまり熱心ではないということもあると思います。改正が予定されている入管法*3も、先進国の水準からするとまだまだ見劣りがする内容になっています。外国人労働者をたくさん入国させたいけれど、移民として定住する外国人の受け入れには積極的ではないというのが日本政府のスタンスですね。でも人口減少が進んで、人手不足は深刻な問題になりつつあります。そこに労働力としてのみ外国人を受け入れようとすると、色々な矛盾が生じてしまうのが現状です。移民として、自分たちの仲間として受け入れるというスタンスで政策を作るという視点に欠けているように思います。多くの国では政権が交代すると、新たな政策を導入して法整備をします。日本は政権交代がほとんど起こらないので、それも新しい政策が進まない理由の1つだと思います。お隣の韓国が実態はあまり日本と変わらない点が多いのに高い評価を受けているのは、大統領が変わるとトップダウンで短期間に法整備が進むからです。

 

一方で、自治体は少し状況が違います。愛知県を含む東海地域はモノづくりが盛んなこともあり、相対的に外国人の割合が多いです。特に小中学校に通っている外国人児童生徒数は、東京などを差し置いて愛知県が全国一位です。そのため、国よりも熱心に多文化共生に取り組んでいます。高浜市や碧南市などでは既に外国人の割合は人口の10%に近づく勢いなので、国よりもずっと切実に問題意識を持って取り組んでいます。国の法改正や法整備が追い付いていなくても、自治体としてやれることをどんどんやっていこうということで、愛知県では昨年第4次プランが策定されました。

 

ただ、国も少しずつですが動き始めています。2018年に入管法が改正されて、「特定技能」という新たな在留資格ができました。特定技能には1号と2号があって、2号は永住への道が開かれるので移民政策じゃないかという批判がありました。当時の安倍首相が国会で「移民ではない」という説明をしたので、そういう意味ではあいまいですし、2号はまだ10人しか誕生しておらず、まだまだ狭き門で過渡期にあると思います。とは言え、コロナが落ち着けば外国人が急速に増えてくるので、国も動き始めていて、その1つに日本語教師の国家資格化があります。日本語学校などでは国家資格を持った教師が日本語を教えて、地域ボランティアは生活上の相談にも乗るなど、国の法律が後押しにもなって、そういった仕組みがようやく作られていくことになりそうです。本当はドイツや韓国のように、国が新規の入国者向けの言語講習をしたり、社会オリエンテーションと言って、社会生活をするうえでの法制度やルールを教える機会を提供できたりすればよいのですが、その仕組みが整えられるまでにはまだ少し時間がかかりそうです。その間に自治体としてやれることをそれぞれで検討して実行しています。

 

ヨーロッパの自治体を中心に広がっている「インターカルチュラリズム」は、異なった文化を持つ人たちが交流し相互に影響し合って、イノベーションを生み出していくことです。カナダを中心にオーストラリアなどに広まった「多文化主義」は、それぞれの文化の維持存続を目指すイメージなので、それとはかなり違います。実際、GAFAなどのアメリカのIT企業の創業者は移民や移民二世の割合が高いんですよね。多様性は新たなものを生み出すというプラスのイメージが持たれていますので、多様性のメリットをいかに実際の施策に反映させるか、周辺自治体の多文化共生推進プランに入れ込むかということに取り組んでいます。また、「多文化主義」「多文化共生」「インターカルチュラリズム」とは何か、日本はどういったタイプなのか、ということを国際的に発信しています。

 

2019年度からの研究は1つ前の発展型でしょうか

そうですね。ウエイトが国中心から自治体中心へシフトしていっています。国の法律はなかなか制定されないけれど、自治体は色々とプランを作ったり、ヘイトスピーチの具体的な対応策を扱ったりしているので、実務的な応用範囲は自治体の方が大きいですし、実際に協力依頼が多いのも自治体です。もちろん、最終的に国を動かさないと法改正はできないので国にも働きかける必要はあります。

 

親しい友人の差別を目の当たりにして

名古屋はこの分野の研究が盛んな地域なのでしょうか

比較的盛んだと思います。研究者の数は東京が一番多いですが、名城大学で開催している「名古屋多文化共生研究会」には、100名以上のこの地域の研究者が参加しています。

 

外国人の人権を研究するきっかけはありましたか

私は博士課程までは「議院内閣制」の研究をしていたのですが、その時期にドイツでは外国人の参政権や人権に対する議論が大変盛んになり、日本の憲法学でも議論が盛んになりました。また、スウェーデンは元々は日本と同様にほとんどがスウェーデン人の国だったのですが、急速に外国人が増えてくると、いち早く彼らに地方参政権を認めて多文化共生の考え方を世に広めた国の1つなんです。スウェーデンでの在外研修時に学んだ様々なことを何らかの形で日本にも生かせないかと考えて、研究を始めたということがまずあります。

 

また、小学校からの親しい友人が在日コリアンだということも大きいかもしれません。名前や言葉ではまったくわからなかったので、彼が在日コリアンであることは後々知ったのですが、彼から聞いた話では、私たちの世代だと大学に行くなら医者か弁護士を目指さないといけない、そうでなければ手に職をつけなさいと高校で進路指導される時代だったようです。いわゆる一般の企業では採用されないという問題があった。その点は今は随分改善されてきていると思いますが、別の新たな形の問題もさまざまにあります。

 

色々と議論することで、多様な観点が入った新たなものが生み出せる

科研費についてのお考えを聞かせてください

もちろん、研究費を獲得することは大事ですが、共同研究ができるというメリットも大きいです。研究分担者や協力者としても積極的に参加するようにしています。そもそも自分で何もかもできるわけじゃないですし、自分が普段あまり関心を向けていないことをやっている人の報告を聴く機会も得られます。また、意見が違えば説得する必要が出てきたりして、より深く議論ができるのがとても良いことだと思います。複数人で科研費の研究を進めると、多様な観点が入って新たなものが生み出されやすくなるように思います。

 

法学の世界にはドメスティックな昔ながらの体質が強く残っています。例えば「査読」を取っても、若手研究者が新たなポストを目指してプラスの評価を得るために査読をつけることはあっても、依頼原稿が中心なので、評価の高い主たる重要な国内雑誌には査読がありません。最近は英語で論文を投稿したり、国際学会で積極的に発表していたりする研究者を目にする機会も増えており、むしろ若手研究者は積極的に取り組むべきだと思います。しかし、そういった体質が法学部教員の科研費申請が多くないことに影響しているかもしれません。

 

やはり、採択される可能性がある程度高くないと申請しようという気にはならないと思うんですね。私の感覚ですが、科研費は一度採択されると連続して採択されやすくなるような気がします。特に若手研究者は「若手研究」という種目があって優遇されているので、若手のうちに毎回申請して採択されていれば、その後もコンスタントに申請することにつながるし、採択率も高くなると思うので、若手研究者は積極的に申請してほしいですね。

 

補注

*1 移民統合政策指数(MIPEX)

各国の外国人の権利保障を指数化したもので、「労働参加」「家族結合」「教育」「保健医療」「政治参加」「永住許可」「国籍取得」「差別禁止」の8の政策分野について、各国の移民政策の専門家が数値化している。

【MIPEX WEBサイト(英語)】

https://www.mipex.eu/

 

*2 OECD(経済協力開発機構)

ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関である。OECDは国際マクロ経済動向、貿易、開発援助といった分野に加え、最近では持続可能な開発、ガバナンスといった新たな分野についても加盟国間の分析・検討を行っている。先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、1)経済成長、2)貿易自由化、3)途上国支援に貢献することを目的としている。

【経済産業省WEBサイト】

https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/oecd/index.html

 

*3 入管法

「出入国管理及び難民認定法」のことで、日本に入出国するすべての人の出入国と日本に在留する外国人の在留の公正な管理を図る。それとともに、難民の認定手続を整備することを目的とする。

【出入国在留管理庁WEBサイト】出入国管理関係法令等

https://www.moj.go.jp/isa/laws/nyukan_hourei_index.html

関連リンク

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