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研究成果トピックス-科研費-

アオウミガメが自ら調査?!

楢崎友子(農学部・生物環境科学科・助教)

公開日時:2022.10.14
カテゴリ: 海洋ゴミ バイオロギング アオウミガメ リスク評価

研究情報

期間

2021~2023年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

21K12265

課題名

絶滅危惧種アオウミガメの摂餌生態に関連した海洋ゴミ誤飲のリスク評価

取材日 2022-04-13

バイオロギング(小さなデータ記録装置を動物の体に直接取り付け、動物の動き、行動や取り巻く環境などについて詳しく調べる手法)を用いて、ウミガメの研究をされている農学部・生物環境科学科の楢崎友子助教にお話を聞きました。

カメが自分でサンプリングへ

科研費で行っている研究を教えてください

私の研究しているアオウミガメ(以下カメ)は、主に温帯域から亜熱帯・熱帯といった温かい海に生息しています。私がメインで調査していた岩手県の三陸沿岸域はそういった温かい海ではないのですが、結構カメがいるんです。普通カメはあまり長距離移動をせずに暮らしている種なのですが、この冷たい海にいるカメはかなりの距離を移動しながら暮らしていることが分かっています。同じ種で同じ年頃のカメでも住んでいる地域で生活ぶりが全然違う。そして、石垣島や黒島などで取ったデータと比べて、岩手のカメはお腹の中からプラスチックごみが出てくる確率が多いことが分かりました。ということは、生活スタイルの違いが誤飲リスクに影響があるのかもしれない、と考えました。

 

実は、この課題は、当初カメの行動において海洋ごみを食べてしまうリスクを調べたいと思って申請したのですが、採択されなかったんです。このままではダメだと思い、そこから違う視点で考えられないか検討に入りました。

 

カメに付けたカメラの映像で彼らの行動を把握することで、カメの行動エリアにおける海洋ごみの誤飲リスクを評価できるのではないかと考えました。カメが自分でサンプリングしにいくみたいな感じですね。海洋ごみのアセスメントは既に色々とありますが、実際に動物にどれだけ影響があるかを調べるためには、その動物の行動エリアの情報がきっと必要で、じゃあカメラを動物に付けてしまえばいいんじゃないかと考えたわけです。

 

実際、環境アセスメントの研究事例を見てみると、最終着地点は似ているものがあるけれど、その研究方法が全然違うので、これは面白いと思ってもらえるかもしれないと思って再度チャレンジしてみたところ採択されました。

 

諦めなかったんですね

はい、今までたくさん業績のある先生でも立て続けに不採択になられることがありますし、もちろん一定レベルに達していなければ採択されないとは思いますが、審査員の方も変わりますし、とりあえず出してみないと分からないと思っています。


コロナ禍で研究は停滞しましたか

そうですね、地理的に離れた場所で調査をすれば、アセスメント的に意味があるのではと考えて、調査地を岩手と石垣とボルネオに設定したのですが、コロナ禍でなかなか調査に出かけることが難しかったです。特にボルネオへの調査は諦めざるを得ないと今は思っています。

 

調査にはそれぞれ1,2か月は最低必要なのですが、名城大学に採用していただいたので長期で大学を不在にすることが難しくなりました。そんな中でも研究分担者のゼミ生が自分の研究テーマに沿った調査を行っていたので、そのデータを使って一緒に解析するという形でも進めることができています。

 

学会もほとんどがオンラインになりましたよね

はい、それによって学会で他の研究者と気軽に交流できなくなってしまったのはとても残念なんですが、一方で、子供が生まれてなかなか海外へ行きづらくなってしまったので、オンラインで参加のハードルがぐっと下がったことはありがたいです。今まで参加したことがなかった学会にも参加してみたりしました。今後はハイブリッドがスタンダードになっていくのかなと思っています。

動物が天気予報の精度を上げる?!

ご自身の研究の社会実装についてはどう思われますか

やはり、カメ視点のビデオは分かりやすくて、環境教育の教材になりやすいと思うので、最近はそれも視野に入れて研究を進めています。

 

また、バイオロギングは、元々は動物の行動を調べることがメインの目的だったのですが、副次的に動物がいた場所の水温などの環境情報を取得できます。海中の観測って実はとても難しいんです。海の表面温度であれば今はインターネットでも調べられるんですが、ちょっと潜ってしまうと観測値はあるものの、密なデータがほとんどない状態です。海の情報って、私たちが思っている以上に分かっていないんです。

 

カメに付けている記録計には水温計もついているので、そのデータを既存の水温データベースに追加してシミュレーションすると、天気や海況の予測精度が飛躍的にアップするという報告もあります。動物をプラットフォームにした海洋観測がすごく使えるんじゃないかというのが、最近ちょっとしたブームのようになっています。どこまで実用的かはまだ分からないですが、カメに限らず記録計を付けた動物たちに環境パラメータを持ってきてもらって、大量に集めたデータを従来の観測記録に合わせれば、天気予報の精度が上がるとか、どこで漁をすればいいかとか、もしくはここは守らないといけないところだとか、が分かればいいなと思っています。また、採餌行動は動物学者的にも気になるところですし、海洋観測の視点で見ても動物が食べる頻度や量によって、どこにそのエサが豊富にあるかが分かるので、簡単に言うとその海の豊かさを把握できて、海洋観測的にも重要なデータになります。

 

工学系の方々と違って、一般社会の役に立つためにこれをやっています!ということではないのですが、こういった副次的なこととか、環境教育教材の開発者との活動が社会に繋がっていけばいいなと思っています。


科研費に応募することは先生にとって必然ですか

私のメインの研究は、動物に記録計を付けて行動を見たり、環境を調べたりすることです。そもそも機械が高価ですし、カメなどの研究対象がいるところに調査へ行く必要があるので、お金がかかる研究テーマです。また、動物に取り付けた記録計は後々回収が必要ですが、失敗して回収できないこともあります。やりたいことをやるためにはお金を取りなさいと言われてきましたね。

 

科研費に初めて挑戦される方にメッセージを

正直なところ、大変だからちょっとやりたくないなーと思うこともあるんです。特に申請書を書き始める時は本当におっくうなんですが、お金が取れれば自分がやりたい研究ができるし、自分のお金があれば他の人に都度お願いすることなく、自らトライするチャンスが得られるのでがんばるしかないなと。科研費をコンスタントに採択されている方の申請書を読ませてもらうと、「あー、だからとれるんだ」ととても勉強になります。私はまだ全然その域に達していませんが、数をこなせば達せられると信じてやっています。


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