研究成果トピックス-科研費-

幻覚作用と抗うつ作用の発現メカニズムを解明したい

衣斐大祐(薬学部・薬学科・准教授)

公開日時:2022.10.17
カテゴリ: HDAC2 抗精神病薬 統合失調症 抗うつ薬 セロトニン5-HT2A受容体 難治性うつ病 ヒストン 前頭葉皮質 5-HT2A 認知機能

研究情報

期間

2019~2021年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

19K07332

課題名

ケタミンの抗うつ作用におけるセロトニン5-HT2A受容体の役割に関する研究

期間

2022~2024年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

22K06872

課題名

幻覚薬の抗うつ関連行動における神経・分子基盤の解明

取材日 2022-05-30

脳内にあるセロトニン5-HT2A受容体に注目し、それを刺激する薬の幻覚作用と抗うつ作用を分離する研究をされている薬学部・薬学科の衣斐大祐准教授にお話を聞きました。

薬理学をもっと突き詰めたい

科研費で今まで行われていた研究とこれからの予定を教えてください

2022年度に採択された科研費は、そのまえの2019年度に採択された科研費の延長線上にある研究になります。私は名城大学赴任前にアメリカに留学して統合失調症の研究をしていました。キーワードは、脳のなかの幸せ物質とも呼ばれているセロトニンなのですが、セロトニンは単体では機能しません。機能するにはそれを受ける受容体が必要なんです。セロトニンにはいろいろな種類の受容体があるのですが、アメリカ留学中からそのなかの1つ「セロトニン5-HT2A受容体」に注目して研究をしていました。当時はセロトニン5-HT2A受容体がどういった役割をしているのかがほとんどわかっていませんでした。そのうち、セロトニン5-HT2A受容体を刺激するとうつ病が治るのではないかという臨床報告があがってくるようになりました。これはおもしろそうだと思って、臨床報告に基づいてセロトニン5-HT2A受容体を標的にした抗うつ薬の研究に取りかかりました。

 

今は研究を始めてから5年ほど経ちましたが、その間に海外ではどんどん研究が進んでいて、日本の厚生労働省に似た役割を持つアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration))が、セロトニン5-HT2A受容体を刺激する薬がうつ病治療のブレイクスルーになるかもしれないとの報告をあげています。セロトニン5-HT2A受容体を刺激する薬は、具体的に言うとLSDに代表される幻覚を起こす薬です。この薬はセロトニン5-HT2A受容体を刺激して幻覚を引き起こすと言われています。また、LSDに加えて、マジックマッシュルームに含まれるシロシビンという成分もセロトニン5-HT2A受容体を活性化させ、幻覚を起こします。セロトニン5-HT2A受容体を刺激すると幻覚が起こるということは数十年前から言われていましたが、それらの薬に抗うつ効果がありそうだとわかったのは最近です。うつ病患者がシロシビンやLSDを摂取すると、症状がかなり改善されそうだという報告はかなりの数あがってきていて、それが世界では主流となってきているものの、まだメカニズムはわかっていません。

 

今は、幻覚を起こすファクターと抗うつ作用を起こすファクターを分離することを目指して実験しています。100%切り離すことが可能かは現時点ではわかりません。また、幻覚が見えることで副産物的に抗うつ効果が得られているのではないかという説もあるので、マウスを使ってその辺りを細かく調べていきたいと考えています。

 

セロトニン5-HT2A受容体は脳のさまざまな部位に存在するのですが、その部位によって果たす役割が違うのではないかということが最近わかってきました。これまでの私たちの研究から、脳の外側の大脳皮質にあるセロトニン5-HT2A受容体は幻覚に関わっていて、それよりも内側にある脳部位のセロトニン5-HT2A受容体は抗うつ作用などに関わっているのではないかというところまでわかってきたので、このまま研究を進めていこうと思っています。

研究者になるきっかけはなんでしたか

昔から「意識」ってなんだろうとぼんやりと思っていたこともあって、そこから人の喜怒哀楽や情動はどうやって生まれてくるのだろうとずっと疑問に思っていました。大学は薬学部に入ったので薬剤師になろうと考えていたのですが、薬理学という学問に出会って、初めて薬学がおもしろいと思えるようになりました。薬理学は、先程お話したようなLSDやシロシビンとセロトニン5-HT2A受容体のような関係で、外から入ってくるものが身体にどう作用するかという学問です。どうせなら薬理学をもっと突き詰めたいと思いました。今やっている研究であれば、将来的にうつ病の患者さんに還元できればいいなとは思いますが、基礎研究というのはそもそもすぐに人に役に立つものかというとわからないですし、現時点ではそこまで考えずに取り組んでいますね。もちろんそこにつながればいいなとは思っています。


科研費がまったく知らない人につながっていく

科研費のよいところはなんでしょうか

科研費に採択されると研究課題名や報告書などがある程度公開されますよね。それを見た人から、「こういうことを研究されているのならちょっと話を聴かせてくれませんか」と連絡が来ることがあります。日本国内にとどまらず海外からも寄稿の依頼があったり、幻覚薬の抗うつ作用というのは社会的に注目されているトピックなので、雑誌社などからも問い合わせがあったりします。科研費やresearchmapの業績でアピール度が高まって、まったく知らない人とつながることが増えているかもしれないですね。

科研費の申請で工夫されていることはありますか

申請書は何回も見直します。今日書いて翌日に見たら、まったく違うものの感じがするとよく言いますが、一晩寝かせたりして時間がある限り試行錯誤するようにしてします。自分の研究を一番わかっているのは自分なので、申請書をほかの人に見てもらうことはあまりないのですが、学内アドバイザー制度を利用した際にいただいたコメントはすごく自信につながりました。

 

科研費だけではなく、普段からさまざまな助成金の申請をしているので、その申請の際にいろいろと作りこんできたものを参考にしたりベースにしたりして、科研費の申請書を作成しています。いつも何かしら書いているので、申請書を書くという練習が自然にできているという感じです。

 

生命科学、特に私たちがやっている脳の研究は技術革新が早いので、ものすごくお金がかかります。どれだけあっても足りないという感覚です。一番お金がかかるのは実験用のマウスですね。近交系と呼ばれるマウスを使うと遺伝的なバラつきが少なくなるので、薬の効果を純粋に比較することができますが、このマウスの値段がとても高いんです。

 

薬学部は薬剤師の国家試験もあって教育の占めるウエイトが大きいので、必然的に先生方の負担も大きいと思っています。融通の利く予算などの一部を使って教育の負担を減らすなどの方策を考えてもいいのかもしれないですね。たとえば私が留学していたアメリカの大学だと教育教員と研究教員はある程度きれいにわかれていました。自分のとってきた研究費で自分の給料の一部を捻出するそうです。研究費を獲得できなかった人は教育のウエイトを増やして教育の方でお金を稼がないといけないという話を聞きました。日本とアメリカではシステムが根本的に異なるので、現実的には難しいと思いますが、それに似たシステムを試験的に導入しても面白いかもしれません。


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