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- 【採択研究紹介】人工知能と異分野連携研究センター
研究センター部門 令和7年度 研究センター推進事業費 研究代表者:堀田一弘(理工学部・教授)
研究内容・今後の展望
2024年のノーベル物理学賞、化学賞ともに人工知能関連であったことから分かるように、人工知能は単なる工学的技術ではなく、様々な分野の新しい基盤技術となりうる技術である。そこで、人工知能と異分野連携研究センターでは人工知能を専門とする研究者と植物分子遺伝学やスポーツ健康科学を専門とする研究者が融合研究を行い、各分野の最先端の研究を加速する。また、異分野特有の問題を一般化して解くことにより新しい人工知能技術も確立する。さらに、人工知能を生物学的制御系等の科学的発見にも利用していく。この3つが本センターにおける研究目的である。
研究代表者である堀田は学生時代から一貫して機械学習を用いた画像認識の研究を行ってきた。2012年にILSVRCという画像認識の世界的なコンテストでトロント大学のHinton教授らのチームが深層学習を用いた方法により圧倒的な1位を取ったことをきっかけに、アメリカを中心に現在の人工知能(深層学習を用いた画像認識、画像生成、自然言語処理などの総称)ブームが始まった。堀田は2012年にアメリカメリーランド大学に在外研究で滞在し、現地で深層学習を知り、帰国後に本格的に深層学習の研究を始めたため、日本では早い段階から深層学習の研究に取り組むことができた。
2012年以降、画像認識や機械学習の分野では深層学習が研究の中心となった。私も深層学習の改良に取り組んできたが、深層学習や人工知能技術が異分野でも話題になり始め、科研費の新学術領域に参加して細胞生物学の研究者達との共同研究を行うようになった。まず、細胞内の脂肪滴という粒子検出に取り組んだ。脂肪滴は互いに重なりがあるため、専門家が見ても正しい個数が分かりにくい、重なりのある粒子の検出は従来の深層学習をそのまま適用しただけでは解けない問題であり、深層学習による距離予測と信頼度の投票という新たな考え方を導入することにより、重なる粒子を精度良く検出できるようになり、公開データセットで世界一の精度を達成した。また、顕微鏡で撮影された細胞画像から細胞核や細胞膜をセグメンテーションする研究を行い、研究室で提案した手法を基にした細胞生物学的な研究成果も出ている。
細胞生物学以外にも人工知能技術の需要は広がり、医学、植物学、材料工学、土木工学の専門家達との共同研究にも取り組み、多数の成果を挙げている。深層学習などの人工知能の研究は世界中で非常に活発に行われ、毎日arXivに新しい論文が投稿され続けている。こうした背景から、人工知能の研究および異分野との連携に主眼を置いた研究センターを設立し、人工知能を専門とする研究者と、名城大学内で人工知能に興味を持ち、利用し始めている研究者達が連携することにより、名城大学の様々な分野の研究をさらに加速することができるのではないかと考えた。また、異分野の問題では既存の人工知能技術を単純に応用しただけでは解けないことも多く、これを解決する手法を提案できれば、新しい人工知能技術の提案にもつながり、両方の分野で最先端の研究が期待できる。
上述のように、最新の深層学習に基づく人工知能技術というシーズと、植物学やスポーツ健康科学などの最先端の研究に関わるニーズを融合し、各分野の研究を加速させていきたい。しかし、各研究分野には分野特有かつ従来の深層学習を単に応用しただけではうまく解けない問題が存在する。例えば、画像認識や深層学習の研究分野ではノイズのないきれいな教師付き画像を多数学習に利用できることが前提となっているが、植物の細胞解析では顕微鏡画像を利用するためノイズが多い上、観測者により染色の度合いが変化したり、学習画像枚数が十分に得られないという問題がある。また、シロイヌナズナなどの実際の植物を観察する際には、生き物であるが故に人間が思っていないような伸長の仕方や植物同士の重なりが発生する。さらに、スポーツ健康科学では、深層学習への入力がそもそも画像ではなく、センサーデータから運動解析を行う必要があるため、画像認識で培われてきた方法が利用できない。こうした各分野特有の問題に対し、一般性を失わないように改良することにより、新しい人工知能技術の確立にも貢献していきたい。
また、世界中で行われている研究のほとんどは、人間が目視で行っていた処理を人工知能技術により自動化するものである。今後は人工知能が主体となって科学的発見をすることが重要になると考えている。つまり、人工知能にデータを与えると自動的に違いを発見し、新たな生物の発達・運動制御系を提唱するような研究にも取り組んでいきたい。