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研究成果トピックス-科研費-

科研費は「あこがれ」であり「恩返し」

ポール・ウィキン(外国語学部・国際英語学科・教授)

公開日時:2022.11.08
カテゴリ: telecollaboration virtual exchange formative assessment transversal competencies グローバル人材

研究情報

期間

2018~2021年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

18K00802

課題名

Telecollaboration and the formative assessment of transversal competencies

取材日 2022-06-03

2000年に来日されて以来、たくさんの日本人に英語を教え、その教育手法や評価手法について研究をされている外国語学部・国際英語学科のポール・ウィキン教授にお話を聞きました。

学生は教員からの評価より同じ学生の評価を受け入れる

科研費で行われた研究を教えてください

申請課題名になっている単語の説明からすると、Telecollaborationは今回の申請課題で言えば、日本にいる学生と海外にいる学生をオンラインでつないで、コミュニケーションを取りながら一緒に課題に取り組む活動のことです。competenciesは“能力”という意味で、transversalは“横断的な”と訳しますが、transversal competenciesは学生の英語の能力を指すのではなく、社会で必要となる能力、リーダーシップやコミュニケーション能力、チームワークやICTの能力などを指します。オンラインではもちろん英語を使ってコラボレーションしますので、英語の能力を伸ばすことも当然ですが、先程の社会で必要となる能力や自己管理能力など、いろいろな能力を伸ばそうと考えて活動を指導しています。そのためにformative assessment(形成的評価)を行います。

 

assessment(評価)はおおまかに言うと2つに分けられます。1つはformative assessment(形成的評価)、もう1つはsummative assessment(総括的評価)です。summative assessment(総括的評価)は。期末テストのような試験を実施して、学生たちをランク付けする評価のことを言います。よくあるのが、中学校や高校で期末テストを実施して、250人全員の順位を出して自分が何位かがわかる、「ぼくは95位だ!」というのは何のためになるんでしょう。

 

一方、formative assessment(形成的評価)は、学習自体が目的です。学生たちの順位を出すためのassessment(評価)ではなくて、いま自分がどのステージにいるのかを知って、そしてどこまで到達したいのかを考え、次のステージに上がることができるように学生たちをassessment(評価)します。テストを行って点数をつけるのではなく、たとえば、speaking(話すこと)の能力を評価するときに、「発音はいいけれど単語の力が弱いのでそこをもっと強化するといいですよ」とアドバイスするというようなことです。そういったことについて研究しました。

 

具体的にはどんなことをされたのですか

名城大学の学生とニューヨークの大学生をそれぞれ22名ほど集めて、8週間のプロジェクトを作りました。学生たちは互いにコミュニケーションを取りながらWriting(書くこと)の課題に取り組みました。そのプロジェクトの結果をassessment(評価)するときに、formative assessment(形成的評価)を実施しました。self-assessment(自己評価)、peer assessment(相互評価:学生同士で評価し合う)、teacher assessment(教員による評価)の3つの評価を行って、transversal competencies(横断的な能力)をどうすれば培うことができるかを研究しました。

 

詳細な結果は出版した書籍にありますが、peer assessment(相互評価)がほかの評価を上回るという結果になりました。self-assessment(自己評価)は厳しくなりがちです。ある研究では、英語のビギナーはself-assessment(自己評価)がとても高く、本学の外国語学部の学生のように上級者になればなるほどself-assessment(自己評価)は低くなると言われています。本当はよい成果が出ていても、本人はダメだったと思いがちで、自分で正しい評価をするのは難しいんです。それに対して、peer assessment(相互評価)はそういった点がないことに加えて、その評価結果が評価された学生にスムーズに受け入れられました。teacher assessment(教員による評価)よりも、英語のネイティブスピーカーで、同じ年齢で同じように語学を勉強している学生がする評価の方が受け入れられやすいということがわかりました。ある日本人学生は「It was good to receive comments from Dave, who is more real. He is studying Japanese and I am studying English. We are the same age and understand what each other is going through. Teacher assessment is quite different.(デーブからのコメントはもっとリアルだった。彼は日本語を勉強しているし、私は英語を勉強している。私たちは同い年でお互いが取り組んできたことを知っている。教員による評価はまったく違った。)」と話していました。それも有用な知見でしたね。

 

ほかには、ビデオレターのような形式でスマホで自撮りして、自分の意見やアイデアを話す作品を作るという課題もそのプロジェクトでやりました。そこでもself-assessment(自己評価)は難しかったのですが、クラスメイトの作品を見て評価することによって、自分の作品を正しく評価できるようになったということも重要だったと思います。

 


自分の研究が有意義だと認められたという自信につながる

科研費は何度か応募されていますか

2度目のチャレンジで採択されました。科研費を取れると自分のキャリアにとって非常によい、大学にとっても科研費を持っている教員がたくさんいるとよいと促されて、7,8年前にはじめてチャレンジしました。大学で働くようになってから科研費という言葉を耳にするようになって、科研費をもらった人はすごい研究者だというイメージがあったので、私もいつかは科研費を取りたいと思っていました。「あこがれ」に近いですね。

 

そのときは残念ながら不採択だったのですが、2度目は博士学位を取得する直前に応募しました。それまで博士学位の取得にとても忙しくて、それが終われば少し余裕ができて研究に専念できると思い、応募することにしました。ただ、実はこの時は採択されるとはまったく思っていなかったんです。不採択でもフィードバックがもらえるので、次に活かすことができると考えて、今回は練習だと思って応募しました。なので、採択されたときは本当にびっくりしましたけど、うれしかったです。

 

海外出身のほかの先生にも応募を勧めますか

はい、勧めますね。確かに申請書を書くのは時間がかかりますが、ほかの日本の研究費と違って、英語で申請できるのでその分ハードルが低いです。実は採択後の書類には戸惑うことがあるのですが、申請自体はスムーズにできるのでぜひ応募してほしいと思います。

 

正直に言うと、私の研究はいわゆる社会的研究なので、大がかりな機械が必要というわけでもないですし、実験用の薬品が必要というわけでもありません。ほとんどの使い道は国際学会で発表するための研究出張になります。個人研究費だけでも十分研究はできるだろうと思います。

 

それでも科研費に応募するのは、申請書を書くのはとてもいい経験になりますし、なによりも自分の研究が日本政府に認められたような気持ちになれるということです。自分は有意義な研究をしているんだという自信につながります。日本の教育に少しでも貢献できているんだと思うと、仕事が一層充実したものになりました。あともう1つは、私は日本の国と名城大学に本当に恵まれたと思っているからですね。この国に来てすばらしい仕事ができるようになって、こちらが申し訳なく感じるくらい恵まれているので、できれば「恩返し」したいとも思っています。今は他大学の研究者の科研費の分担者をしていたり、以前出版した書籍の第2弾を執筆していたりして大変忙しくしているのですが、また必ず応募しようと思っています。

 

 


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