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研究成果トピックス-科研費-

根っこはおもしろい

塚越啓央(農学部・生物資源学科・准教授)

公開日時:2023.05.11
カテゴリ: 側根発達 概日リズム イメージング VLCFA DNN 側根形成 転写ネットワーク 画像解析

研究情報

期間

2019~2021年度

種目

基盤研究(B)

課題/領域番号

19H03251

課題名

VLCFAを新しいシグナル分子として利用する植物側根形成メカニズム

期間

2020~2021年度

種目

新学術領域研究(研究領域提案型)

課題/領域番号

20H05426

課題名

概日時計のリズム変動によってもたらされる側根発達の変調メカニズム

期間

2023~2024年度

種目

学術変革領域研究(A)

課題/領域番号

23H04207

課題名

不均一生育温度に対する根の成長レジリエンスを司るVLCFAシグナル

取材日 2023-04-17

 

植物、特に「根」の形作りのメカニズムがご専門で、基盤研究のほかに、新学術領域研究(研究領域提案型)や学術変革領域研究(A)にも採択されている農学部・生物資源学科の塚越啓央准教授にお話を聞きました。

 

 

植物の根は重要な役割がたくさんある

メインの研究内容について教えてください

植物の生長制御に着目しています。特に根っこの部分がどうやって大きくなるのかをメインに研究しています。植物は一度根付いてしまうと、そこから動くことができないので、その場所で色々な環境変化を感じ取らないといけません。また、自分から栄養を取りに動くことができないので、根っこを使って土壌から栄養を吸収しないといけないんですね。色々な環境変化に左右されずに、根っこの大きさを担保してやることができれば、栄養吸収の効率が上がるし、根っこが支持体として働いているので、地上部も大きくなります。

 

また、根っこは支持体としての働きと栄養吸収の役割のほかに、センサーの役割もあります。根付くと動けないので、周りの環境変化を感じ取って、植物体全体に「今こんな環境変化があるよ、だから成長を一度止めなきゃダメだよ」とか、「今良い状況だから成長を再開しようよ」というような指示を出しています。そういった情報を根っこがどうやって植物体に伝えているのかというところも含めて研究しています。

 

基盤研究(B)の研究内容を教えてください

根に着目しているという点においては、新学術領域研究(研究領域提案型)や学術変革領域研究(A)と同じですが、この研究は根の「成長」についてがメインになります。

 

元々は、アメリカ留学中に「活性酸素種」という物質が根の成長に関わっていることを発見したところから始まります。その活性酸素種のシグナルを調べていくなかで、「極長鎖脂肪酸」という植物が作る特別な油があって、それが根の成長に関わっていることを発見しました。このメカニズムを明らかにすることがこの研究の目的でした。

 

私は根の伸長と分岐の両方に注目していて、根は分岐して根圏(植物の根の分泌物と土壌微生物によって影響されている土壌空間のこと)を大きくしないといけないんですが、分岐する際にその油が大切だということがわかりました。今まで根の成長には植物ホルモンが重要だと言われていたのですが、植物ホルモンとは異なる制御が働いていることを解明できました。

 

 

新学術領域研究(研究領域提案型)と学術変革領域研究(A)についても教えてください

新学術領域研究(研究領域提案型)(以下「新学術」)は、いわゆる基盤研究のようなボトムアップではなくて、決められたテーマ(研究領域)に申請するものです。「周期と変調」という研究領域が新たに設置されたときは、「概日時計」と言って、根の成長、特に分岐を開始する際に24時間のリズムを刻んでいるということがちょうどわかってきているところでした。根の成長に「周期と変調」は非常に大切だと考えて申請しました。いくつも持っていたアイデアの1つに合致した研究領域が、ちょうどいいタイミングで設置されました。

 

学術変革領域研究(A)(以下「学術変革」)は、基本的には基盤研究(B)の発展型になります。前述の研究を進めるなかで、新しい仮説やその仮説を支持するデータが出てきたので、それを色々と考えているうちに、これに合うような研究テーマを提案できるんじゃないかと思って申請しました。

 

この研究のなかで、社会貢献につながるかもしれないと思っていることがあります。今までは一定の温度に保たれたチャンバーと言うボックスの中で生育した植物を使って研究をしていました。でも、実際に屋外で生きている植物を考えると、地上部の温度は高くても地下部の温度は低いことがありますよね。なので、今は「上は温かくて下だけ冷たい」といった不均一環境を提供できるデバイスの作成を進めています。これによって、実験室環境ではなく、実験室から一歩踏み出した、実際の植物の生育環境に近い状況を構築して、根の成長のメカニズムを解明できれば、農業への応用につながるかもしれないと考えています。

 

科研費は研究費獲得以外にも大きなメリットがある

いつも複数応募されているイメージですが、アイデアはどんな時に浮かびますか

自分の興味ある論文を読みながら「こういうところはなぜわかっていないんだろう、こうしたらおもしろいんじゃないか」と考えて、ちょっと踏み出してみるというのがありますね。あとは、リラックスしているときにアイデアが出てくることもあります。草野球が趣味なんですが、外野を守っててヒマなときに、周りに生えている草を見ながら「なぜこの草はこんなに強いんだろう。じゃあもしかしてこんなことがあるのかな」と考えることがあるので、リラックスしているときが良いのかもしれません。

 

アイデアを申請書という形に落とし込むのは大変ですか

大変ですね。あとは、申請締め切りから半年間は結果がわからないので、落ちたらどうしようという不安との戦いがツライですね。申請書を書くこと自体はそんなに苦痛ではなくて、「本当に必要なのか、おもしろいのか」と考えながら書いていると、自分のアイデアを見つめ直すことができますし、こんなことが自研究室の学生にできたらおもしろいだろうなと考えるのは結構楽しいです。

 

パソコンに向かって申請書を書き始めて、2,3行で詰まってしまったらすぐに止めて違うことをします。自分の気が乗らないときには悪い文章しか書けないので、結局魅力的な内容にはなりません。調子に乗っているときはどんどん筆が進むので、その時に一気に攻めます。元々気分屋なので、気分に従ってやっている感じですね。

 

工夫しているところはありますか

まずはわかりやすく、そして自分のおもしろさをどう伝えるか、あとはあまり大風呂敷を広げすぎない、実現不可能なことを言い続けないことですかね。100歩先のことではなくて、2歩くらい先に実現できそうなことを言うようにしています。頭の中でシュミレーションすることも大事ですね。論文を読んで、ここがわかっていないから、こういう実験を設定して、こういうことをやればわかるだろう、それをやるために何が足りないのか、足りないもののサポートをお願いするなら誰だろうと考えています。

 

採択率はいかがですか

私は低いです。出しまくってますから。

 

不採択でへこんで「もうイヤだ」と思うことはないですか

ありますよ。でもその日だけですね。転んで足が痛いと言って止まっていても何もないので、すぐに立ち上がって走り出すしかないと思っています。まあでも、荒れますけどね、家で1日くらいは(笑)

 

それでも申請するモチベーションはなんでしょうか

まず、自分のアイデアを実験して証明したいと考えたときに研究費が必要になるので、基盤研究はそのために申請します。一方で、新学術と学術変革については、私のなかで少し意味合いが違います。研究費を得ることはもちろん大事ですが、コミュニティに入るという目的が大きいです。新学術と学術変革は、研究費を得た公募班や学術領域を設置した計画班のメンバーが一堂に会して、研究進捗状況を年に2回発表する班会議があります。そういったところで刺激を受けて、コミュニティを作って共同研究を進めたり、サポート班に依頼して専門外の技術を提供してもらって研究を進めたりすることができるので、それが非常に良いところです。

 

そして、もう1つは学生にも非常に良い影響があるということです。研究は教員だけでは絶対に進みません。学生と一緒にやっていかないといけないのですが、私の研究室には修士課程5名、博士課程3名の学生がいます。彼らの力を最大限に引き出してあげるには、こういったコミュニティで他機関の教員や若手研究者たちとつながりを作って刺激しあうことが大事だと思っています。新学術と学術変革は研究を進めることができるだけでなく、教育的効果も非常に高いです。若手の会に自研究室の学生が参加できる権利を得ることも目指してやっていますね。

 

私は以前にさきがけ(*)の研究メンバーだったのですが、そのメンバーとは学会やシンポジウム開催で助けてもらうなど、今でもつながりがあります。基盤研究などのボトムアップ型は、自分の研究テーマを自由に展開できる点が良いのですが、トップダウン型はコミュニティ形成という点で非常に良いと思っています。

 

 

「餅は餅屋」で専門家に任せた方がうまくいく

カーボンニュートラルやSDGsの名のもと、分野を横断した形の研究交流が重要視されています

これを進めるのは研究者の意識次第だと思います。たとえば、学術変革では理工学部・材料機能工学科の宇佐美初彦教授に金属加工の依頼をしてデバイス作成の手助けをしてもらっているんですが、私にはできないけれど、もしかしたら宇佐美先生ならできるかもしれないと思い切って声をかけてみたら「やりますよ、こういうの楽しいよね」と快諾していただけました。ベテランだけではなく、若手から率先して声をかけたら良いと思っています。そうすれば分野横断は容易にできると思います。

 

電気電子工学科の堀田一弘教授にも新学術の時にAIの画像認証でお世話になりましたし、科研費ではありませんが、材料機能工学科の上山智教授や電気電子工学科の伊藤昌文教授とも共同研究をしています。

 

アメリカ留学の時に感じたのですが、アメリカの研究室は縦割りじゃなくて、めちゃくちゃ横のつながりがあるんですよ。機械の貸し借りも頻繁で、機械を借りているときにそこの若手研究者と話すようになって、そこから研究が広がることもありました。自分が本当にやりたいと思うことがあれば、声をかければみなさん助けてくれると思います。意識的に分野横断をした方がおもしろいし、刺激があると考えている研究者の方が多いと思うので、積極的に声をかけるようにしています。そこは総合大学の強みですよね。モノづくりはとても重要だけど自分ではできない。だったらすぐそばの理工学部の研究者にお願いすればいい。1人で抱え込むよりも「餅は餅屋」で任せることを意識しながら、自分の柱に良いものをどんどん付けていけば、大きな木になるのかなと思っています。

 

本学にもカーボンニュートラル研究推進機構が設立されて、分野横断や文理融合を推進する動きがあります

さきがけはまさにカーボンニュートラルで、二酸化炭素資源化という研究領域だったんですが、植物や材料系、酵素反応など様々な専門を持つメンバーがいておもしろかったですね。植物を大きくするだけではなくて光合成の能力を上げよう、とか、バイオエタノールをどうやって作ろうか、とか、炭素からファイバーを作れば二酸化炭素の資源化になるよね、とか、色々なアイデアが出てくる雑多なところだったので、ものすごくおもしろかったです。

 

そこでとても感じるのは、SDGsやカーボンニュートラルなどの錦の御旗は大事なんですが、そこに完全に専門分野がハマる研究者しか入れないと、ほかの人は「もういいや」となってしまう。そうじゃなくて、もっとぼんやりとした、「もしかしたらここに貢献できるかもしれない」程度の、どちらかというと少しズレた分野の新進気鋭の研究者を入れた方が新しい発見がありそうな気がします。それで実績が生まれれば、ほかの研究者も入りやすくなると思います。「自分もできるかもしれない、やりたい」と思う研究者が集まった方が、最終的にゴールに近づくんじゃないかなと思いますね。

 

日本は縦割りなことがほとんどなので確かに難しいですけど、もっとみんな打算的になれば良くて、「自分ではできないから誰かやってよ」という打算的な考え方を持つことが許されれば、分野横断や文理融合はもっと進むと思います。

 

*さきがけとは

日本科学技術振興機構 JST戦略的創造研究推進事業さきがけ

戦略目標に基づいて、未来のイノベーションの芽を育む個人型研究です。「さきがけ牧場」とも呼ばれ、ユニークなイノベーション・ヒューマンネットワークが形成されています。

https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/index.html

 

塚越准教授が研究メンバーとして参加した研究領域

「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」(第二期)

https://www.jst.go.jp/presto/plantsci/outline/index.html

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