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肺に効率よく届く吸入粉末剤を作りたい
奥田知将(薬学部・薬学科・准教授)
- 公開日時:2022.10.27
- カテゴリ: ナノ粒子 吸入粉末剤 再分散 粉末微粒子設計 ドラックデリバリーシステム 噴霧急速凍結乾燥法 エアロゾル 遺伝子治療 アデノ随伴ウイルスベクター
研究情報
期間 |
2017~2019年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
17K08258 |
課題名 |
ナノ粒子の再分散/肺送達に適した吸入粉末製剤化及び体内動態/安全性の包括的評価 |
期間 |
2021~2023年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
21K06501 |
課題名 |
ウイルスベクターに適した粉末製剤設計による経肺・経鼻投与型遺伝子吸入粉末剤の開発 |
取材日 | 2022-06-22 |
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粉末を吸入する方法で肺に薬を送り込むシステムについて研究されている、薬物動態制御学がご専門の薬学部・薬学科の奥田知将准教授にお話を聞きました。
ウイルスを使って体内に遺伝子を送り込む
科研費の研究の背景を教えてください
2017年度からの研究と2021年度からの研究は繋がっていて、おもに吸入粉末剤の開発と実装についての研究になります。その前提の話として、遺伝子が働かなかったり欠損していたりして、病気になる人が世のなかにいます。そこで、治療にかかわる遺伝子を体内に送り込むことによって遺伝子を発現させて、それによってできるたんぱく質によって治療効果を得るというのが、遺伝子治療の基本的な形となります。この場合、遺伝子を核のなかまで送り込まないといけないのですが、遺伝子は血液中に打つとすぐに分解してしまうので、目的の場所まで送り込むシステムが必要になります。
ウイルスを使って遺伝子を運ぶというウイルスベクターという方法があります。ウイルスは自身の遺伝子(DNAおよびRNA)をヒトの細胞内の細胞質および核に送り込んで、その場で遺伝子の複製を経て増殖するので、それを治療に流用したのがウイルスベクターです。このウイルスベクターはあくまで「運ぶ」ことだけに特化して改変された遺伝子を持っています。
ウイルスベクターは製品のすべてが液体の状態、つまり液中にウイルスベクターを分散した形のもので、主には注射剤での投与となります。この製品の安定性があまりよくありません。ウイルスベクターは保存・輸送の際にマイナス80度を維持しないといけないので、管理が非常に大変です。この安定性を高めることを考えた結果、最終的に私たちは吸入粉末剤、つまり粉末の状態で肺に送り込むシステムを作りたいと考えました。粉末化することで安定性が高まれば、マイナス80度で凍結した状態を維持しなくてもよくなりますし、ウイルスベクターの水中ではすぐ凝集してしまうというデメリットの解消も期待できます。
こういったときにネックになってくるのは、何の工夫もせずに粉末化や乾燥させてしまうと、活性がほぼゼロにまで落ちてしまうということです。そこで、ウイルスベクターを保護する機能を持った添加剤を入れて、粉末化した後も機能を保持しようと考えました。さまざまな実験を経て、ウイルスベクターが持っている遺伝子発現活性がほぼ100%保持可能になる添加剤を見出しました。
しかし、まだ現状はあくまでも液体試料を凍結乾燥しているだけなので、これを最終的に吸入粉末剤に応用すべく、次は微粒子設計を進めています。ただし、保存するときは粉末の状態にしておいて、溶解して使うという方法も考えられるので、この技術も重要であろうと考えて特許申請を進めていますが、あくまでも私たちの研究の目的は、溶解せず粉末の状態で投与できるようなものを開発するということです。
それぞれの研究内容についてもう少し教えてください
2017年度からの科研費では、医療用ナノ粒子を有効に吸入粉末剤として開発するための基礎的な情報を得るために、身体のなかで壊れない安定性の高いポリスチレンナノ粒子というモデルナノ粒子を使いました。今まではナノ粒子を液体の状態で投与することが常だったので、我々が開発している粉末微粒子として投与した場合に関する情報が非常に少なかったからです。
このナノ粒子を粉末微粒化し、ちゃんと水中で元のナノ粒子を形成するかを調べました。ナノ粒子が表面に電荷を持っていると、粒子同士が電気的に反発しやすいので、ナノ粒子の凝集が比較的抑制されて、水中でナノ粒子を形成しやすいということがわかりました。逆に電荷がなく電気的に中性の状態だとナノ粒子が凝集しやすく、粉末化する前よりも大きな粒子を形成することが頻繁に起きました。そういった中性のナノ粒子でも表面をコーティングすることによって、水中で分散しやすい状態に改善できることも見出しました。これらのナノ粒子の分散に適した添加剤としてトレハロースが最も有用でしたが、それだけでは吸入剤応用ができないので、トレハロースの一部をロイシンで置換することによって、水中でナノ粒子を形成し肺送達性もよい粉末微粒子が得られるということを見出しました。
2021年度からの科研費では、すでに得られた成果を基にナノ粒子に該当するウイルスベクターを吸入粉末剤として医療応用するための研究を進めています。粉末状の吸入薬である吸入粉末剤は、使用法が簡便で、人が吸い込んだ気流で粉末を肺の奥に送達します。しかし、しっかり吸わないと肺の奥に行かず、現時点での送達性は20~40%ほどで、大部分をロスしていると言われています。病気にかかっている人はしっかり吸えないことが多いので、理想はどのような吸い方をしても高い肺送達性を維持できるものを作るということです。吸入粉末剤は世界的に主流になってきてはいますが、まだまだ開発途上の分野なので、今後研究を進めていきたいと思っています。
発展と貢献、両方したい
科研費についてのお考えをお聞かせください
教員という職には就いていますが、科研費は社会に研究者として認められる1つの方法かなと思っています。自分のやっている研究を納得してもらいたいという欲求が自分のなかにありますね。科研費に採択されるということは、自分の研究内容が社会的に評価されているということ、論文を認めてもらうことと同等のことじゃないかなと思います。成果報告などで、自分の取り組んでいる研究を社会に発信する1つの機会だとも思っています。
今まで不採択だったことはありますか
何回もあります。科研費だけであれば採択率は5割を超えていますが、ほかの研究助成も合わせると採択率は非常に低いです。もちろん、不採択の時は一時的にはモチベーションは下がりますが、不採択には理由が必ずあるので、不足しているデータを取って補うことなどを考えます。ただ、論文審査とは違ってそのものズバリの専門家が審査しているわけではないので、ある程度割り切っている部分もありますね。論文を執筆するときは研究成果を詳細に説明して、それがいかに有意義かということをアピールすることが重要ですが、科研費はわかりやすくどこがこの研究のよいところかをアピールする必要があると思います。自分がやっていることがどれだけ新しくてほかの人がやっていないのかをわかってもらえるように書くことに注力しています。
科研費が難しいなと感じるのは、今は挑戦的な研究を求めている種目もありますが、どちらかと言うと挑戦的な内容はギャンブル的なものに見られがちで、時期尚早で情報不足という理由で不採択になるケースが多いように思うところです。なので、ある程度は研究を進めているので見込みがあるよとアピールするとうまくいく気がしています。データが入った図表などを入れられるといいですね。実際、今まで不採択だったときは、発想だけで勝負しているようなものだったと思います。翌年には図表が書けるくらいの基礎情報が得られていたので、採択されたのではと思っています。学内助成はそういった基礎研究を進めるための財源を得るという要素が強いです。どれだけ学内助成を得ても世間に知られることはありませんが、科研費は自分のやっている研究を社会に認めてもらうというところが私にとっては大きいですね。
社会貢献や社会実装に関してはどう思われますか
論文を執筆することはもちろん重要ではありますが、そこで止まってしまうと自己満足で終わってしまいます。特に私は薬学部にいて最終目標は自分の研究を医薬品として応用することなので、研究はあくまでもプロセスの1つです。プロセスを得るためにはお金も必要だし、情報を収集するためには論文にもあたる必要があります。ただ、研究を完結させることが終わりではなく、あくまでも製品として医療の現場で使われることが大事で社会貢献とはこういうことかなと思います。もちろん、論文は発展にはつながっていると思いますが社会貢献ではありませんよね。発展と貢献は違うので、サイエンスとしては発展を目指しつつ、同時に社会貢献もしていきたいと思います。
関連リンク
- researchmap
https://researchmap.jp/tmokuda - 科学研究費助成事業データベース(2017-2019)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K08258 - 科学研究費助成事業データベース(2021-2023)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K06501