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科研費は研究のペースメーカーでありお墨付きを与えてくれるもの
松本俊太(法学部・応用実務法学科・教授)
- 公開日時:2022.10.26
- カテゴリ: アメリカ連邦議会 政党組織 分極化 大統領制 議院内閣制
研究情報
期間 |
2016~2019年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
16K03496 |
課題名 |
アメリカ連邦議会指導部の強化と立法過程の行動論的分析 |
期間 |
2022~2025年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
22K01346 |
課題名 |
アメリカ連邦議会内の政党組織の発達とその帰結:「疑似的な議院内閣制」への変化 |
取材日 | 2022-04-27 |
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政治過程論(現代政治の実証分析)とくに現代アメリカ政治(議会・大統領制・政党制)を専門とされている法学部・応用実務法学科の松本俊太教授にお話を聞きました。
アメリカ=大統領ではない?!
科研費で今まで行われていた研究を教えてください
初めて科研費を申請したのは2008年度ですね。それからやっていることはずっと一貫していて、アメリカ連邦議会が、実際にアメリカという国をいかに動かしているのかを研究しています。アメリカ連邦議会の一番の特徴は、元々は主張にほとんど違いのない仲も悪くない2つの大きな政党があって、党単位というよりも個別の議員が議論をして、大統領は超党派的に議会と関わるというものでした。しかし、それが近年だんだん党派的な対立が強くなってきて、思想が随分と違ってきていることに加えて、政党間の人間関係も悪くなってきています。この現象は、今では「分極化」と呼ばれるようになっています。
アメリカ連邦議会において政党が分極化し、そこで大統領が良くも悪くも国を二分する役割を果たしている、といった内容をまとめた単著を2017年に出版しました。学術的な専門書としてはひと仕事終えた形になりましたが、読者層を広げるためにこれから2年後を目指して一般にも向けた単著を出版したいと考えています。
どうしてもアメリカ政治というと大統領が最初にイメージされて、大統領の話ばかりになってしまうのではないでしょうか。報道機関もそうですし、研究者であっても専門外だとアメリカといえば大統領という先入観を持たれがちです。アメリカでは本当に強いのは大統領ではなくて議会なんです。まず一般的に持たれている先入観をひっくり返さないとその先の学術的な話ができないだろうと思い、一般向けの単著を書くことにしました。
やっかいなのは、アメリカ本国のアメリカ政治研究では議会が強いということが通説となっていることです。アメリカの学会と日本国内の大半の認識に大きなギャップがあるというのが実情です。まずそこを埋めるところから始めたいと思っています。同時にアメリカに向けても論文を書いて、できればジャーナルに掲載したいと考えています。
「アメリカ=大統領ではない」というところをもう少し詳しく教えてください
三権分立の原則、小学校から高校のときに習いましたね。立法・行政・司法の独立した機関がありますが、アメリカや日本をはじめ、多くの国では立法が筆頭格です。なぜなら、議員は有権者が直接選んでいますし、国の基本を決めているのは法律ですから、法律を作る人が三権の中でも一番格が高いんです。そして、アメリカの大統領制は、ほかの国と比べて特徴が2つあります。1つは大統領という役職は、元々は議会が無謀なことをしないようにするために設けられたということです。今の感覚とは全く逆ですね。もう1つは、大統領という役職は王様がいない国で設けられるということです。かつての国家元首は王様ですよね。王様を追っ払ってしまった国は王様の代わりとなる国家元首をたてないといけない。アメリカはイギリスの王様に税金を取られるのがイヤで戦争して独立した国なので、新たに自分で王様をたてようとはならない、じゃあ王様役は選挙で選ぼう、というのが大統領制の起源です。
実際、アメリカ大統領の役割はすごく大きいですが、それは行政のトップや国家元首としての役割であって、日本のような議院内閣制の国における役割とは意味合いが違います。日本の場合は、法律を作るときにリーダーシップを発揮するのは、国会議員のなかから選ばれた首相です。有権者から選ばれた議員で構成されている国会で過半数を取っている与党から選ばれるので、首相は強いんです。行政のトップであることに加えて、国会の多数派を押さえているから立法にも影響を与えることができるんです。
対して、大統領は立法に関して権限がほぼありません。非公式に議員を説得したり、有権者に直接訴えかけたりして議会を動かせば、あるいは影響があるかもしれませんが、元々大統領は限られたことしかできないんです。三権は対等ですが、格でいうと大統領は2番目です。アメリカ合衆国憲法は第1条が議会で、第2条が大統領です。こういう話からしないと分かってもらえないんですよね。
アメリカ議会を研究するきっかけは何でしたか
法学部に入学して政治学を学ぼうと思ったのは、はじめは消去法だったんですが、そのうちに現代の政治全般を研究したくなって大学院に入りました。その時の指導教官に、アメリカ政治に関しては資料が非常に豊富なので、修士論文はアメリカで書けば失敗しないと言われました。最初は論文を書く練習のつもりだったんですが、結局修士論文では論じたいことを書ききれなかったので、これはそのまま博士論文になるだろうなと思いました。修士課程を終えてからアメリカに留学したこともあり、アメリカの立法過程について博士論文を書きましたが、そのなかで議論したことでも説明がつかなかった部分がありました。これはアメリカ議会の根本から議論しないといけないと、考えたり調べたりするうちに、議会内の二大政党の分極化が根本だと分かって、それをやっていこうとなりました。
政治学にもいろいろな流派や学び方、論じ方があります。理系の先生にはルーズな学問だと言われるかもしれませんが、私の研究は「科学」を志向しています。政治は現実にどう動いているのかを論理的に考えて、仮説をたてて、データを集めて分析して、理論が正しいかを考えていく、ダメだったら理論を修正して、さらにデータと実証的な知見を重ねていく、そういったことをしています。私が学生だったときは科学的に政治を研究するということに対して、伝統的な政治学からの反発もありました。当時は新しい学問だと言われていたことも私がこの分野を選ぶ上では大きかったです。いろいろオープンなことも科学的な政治学に惹かれた理由ですね。
研究が客観視できて計画的・効率的になる
科研費申請に対するモチベーションはいかがですか
アメリカに関する研究なので、現地へ取材に行くこともあれば、アメリカの学会で発表することもあります。海外での学会報告は学内の補助制度もありますので、科研費に申請するのは単に研究費が欲しいから、というわけではありませんん。
科研費申請をする理由はいくつかあります。まず1つ目は、研究計画調書を書くと頭の中を整理することができるからです。2つ目は調書には研究計画を記載しないといけないので、計画を出してしまえばその通りに進められるように努力しないといけないからです。特に専任教員になると研究を誰かに強制されることはありません。自分でモチベーションを保つ必要があるので、研究を続ける上でよいペースメーカーになってくれます。3つ目は、研究を進めてゆくと、うまくいかなかったり、うまくいっていたとしてもこれで本当に大丈夫なんだろうか、と自信をなくすときがあるんです。でも、そんなときは、ちゃんと審査されて科研費に採択された研究だから、と開き直ることができます。科研費の審査は、自分の研究にお墨付きを与えてくれます。これは精神的に大きな支えです。
申請したことがない人には、申請すべきだというのはもちろんそうなのですが、それ以上にまず一度申請してみたらいいよと言いたいですね。申請して悪いことは1つもないです。不採択の場合でも結果が開示されるのでとても勉強になります。自分の研究を客観視できる機会が得られるのはありがたいことですから。審査結果は、自分の研究の強みと弱みをちゃんと教えてくれます。強い部分は伸ばせばいいという判断ができますし、弱い部分は改善すればよいので、長期的に見れば研究が非常に効率的になります。科研費の審査はものすごく厳密でフェアなので、採択されたら自信を持っていいですし、不採択でも次回に採択される可能性が大いに上がります。わたしの現在の戦績は4勝2敗ですが、そのうち2勝は前の年に不採択になった調書を修正したものです。
関連リンク
- researchmap
https://researchmap.jp/smatsumo1976 - 科学研究費助成事業データベース(2016-2019)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K03496/ - 科学研究費助成事業データベース(2022-2025)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K01346/