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研究成果トピックス-科研費-

言語のメカニズムは非常に論理的にできている

久米祐介(法学部・法学科)

公開日時:2023.12.18
カテゴリ: 生成文法 中間構文 能格構文 tough構文 英語学 通時的発達 言語変化

研究情報

期間

2017~2019年度

種目

若手研究(B)

課題/領域番号

17K13477

課題名

中間構文の共時的・通時的研究

期間

2020~2023年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

20K00690

課題名

英語tough構文とその関連構文の通時的・共時的研究

取材日 2023-12-8

 

英語の『理論言語学』がご専門で、英語という言語の構造やルール、システムといったメカニズムについて研究されている法学部・法学科の久米祐介准教授にお話を聞きました。

 

 

大の苦手だった英語の文法書を自作した

ご専門を教えてください

基本的には『理論言語学』になります。N.チョムスキー(N. Chomsky)という有名な言語学者がいるんですが、それまでは人文学的な範疇(はんちゅう)で研究されていた言語学を、彼が自然科学的な見地からとらえるということを始めました。それが一気に理論言語学を盛んにするきっかけになりました。人文学はわかりやすく言うと、人間の精神的な活動や経験に基づいた人間の本性が研究の中心になりますが、自然科学は仮説を立てて、それを検証・証明していくという、数学、物理学、化学などが主な分野になります。

 

なぜ言語学の道を選んだのですか

実は、私は中学高校の時は英語があまり得意じゃなかったんです。文系だったので、英語ができないと大学に行くのは難しいと当時の高校の先生から言われてしまって、重い腰を上げてまず文法を勉強し始めました。そこで日本語とはずいぶんとルールが違うことにようやく気づいて、とりあえずいろんな参考書を読み漁りました。それで再度模擬試験を受けたら、全然点数が上がらない。「読めるようにも書けるようにもならないじゃないか」と思って、自分なりに使える文法書を作ってみることにしました。英語と日本語の違いや英語の仕組み、根本的な構造の違いから始めました。実際に作ってみたら、やっぱりおもしろいんですよね。言語というのはこんなに論理的にできているんだということに気づいて、言語の仕組みに興味を持ち始めました。

 

結局、英語を専門分野として選んで大学に進学して、そこで初めて言語学に出会いました。その時に初めて『生成文法』を知ったんですが、高校までの英語学習とは根本的に違う体系の学問で、言語がどういうメカニズムで動いているのかを理論的に積み上げていく学問というのが、自分が求めていたものととてもマッチしていると感じました。英語は最初は本当に何が何だかわからなくて、こんなにわからないことが世の中に存在するのかと思ったくらいだったんです。日本語だと母語話者の直観が働いて、言語運用上の文法知識を無意識に使えてしまうんですが、英文法はシステムやルールを自分なりに整理できているつもりでも、全然説明がつかないことがたくさんあるので、それが逆に興味を持つきっかけになったかもしれません。

 

研究者になろうと思ったのはいつ頃ですか

私の経歴は少し変わっていて、大学を卒業して一度普通に就職しました。大学生の時に学習塾で英語指導のアルバイトをしていた経験から、英語を教えるのは良いなと思って大手の予備校に就職しました。数年働いてみると、受講生よりは確かに自分は英語ができるんですけど、受講生と同じ知識体系で教えていることに違和感があって、言語学の知識をもう少し深めたいと思って、大学院に入りました。最初は英語を教えるために勉強したくて大学院に入ったんですけど、いつの間にか研究に没頭するようになりました。指導教員に勧められたこともあって、修士で終わる予定が博士課程まで進んでここまで来たという感じです。

 

私は働きながら大学院に行ったので、本当にしんどかったです。午前中は非常勤講師として大学で講義をして、その後大学院で夕方まで授業を受けて、そこから予備校で深夜まで授業をして帰るという毎日でした。加えてコンスタントに論文を書かないと博士論文を書く権利が与えられなかったので、論文も必死で書いていました。今考えたら良くやっていたなと思います。でもそうしないと生活できないし、学費が払えない。その時が人生で一番きついときだったかもしれません。ただ、研究自体は楽しかったのでなんとか続けられました。指導教員はめちゃくちゃ厳しかったですけど、将来は1人でやっていかなければならない、その状況を見越して厳しく指導されていたんだな、と今は良く理解できます。


それぞれの時代における英語を通じて構造を理論的に検証していく

科研費の研究について聞かせてください

『中間構文の共時的・通時的研究』から話すと、日本語と同様に、英語の動詞には自動詞と他動詞があって、たとえば「花びんを壊す」の「壊す」は他動詞でありながら、花びんの形をこなごなに変えるという意味で、「○○に△△させる」といったような、使役的な意味を持っていると言われています。さらに使役動詞は他動詞から自動詞への交替を起こすと言われていて、「花びんが壊れる」という言い方ができるんですね。これを『使役交替』と言います。この自動詞の文のことを『能格構文』と言います。対して『中間構文』は少し違っていて、「この花びんは壊れやすい」、つまり「すぐに割れてしまう」みたいな文になります。『能格構文』は出来ごとを表すんですが、『中間構文』はモノの性質を表すんですね。

 

英語の中間構文には、ものすごくいろんな制約がかかっていて、たとえば「The vase breaks easily.」のように文中に副詞(ここではeasily)が必要になります。副詞がないときはwillなどの助動詞が必要だったり、否定文にしたりする必要があります。それがなぜなのかということは、今までなかなか説明されてこなかったんです。そこに興味を持ってやってみようと思いました。

 

私は今の英語だけじゃなく1000年以上前からの英語を見ることによって、どうして今の形になっているのかを研究しています。現代英語の研究のことを『共時的研究』、それぞれの時代における英語を通じて研究していくことを『通時的研究』と呼んでいます。

 

中間構文の成立は、今から100~200年前の近代英語期だと思われるんですが、もっと前の時代の英語を見てみると、能格構文と中間構文のあいだのような文が出てくるんですね。すごく昔の『古英語』と言われる一番古い英語には能格構文があるのみで中間構文がありません。古英語から近代英語に移り変わるなかで、どういった変化が起こったのかを現行の生成文法の理論を使いながら検証していくという研究です。

 

『英語tough構文とその関連構文の通時的・共時的研究』についても教えてください

tough構文は英語学のなかでは多くの研究者が研究対象にしているんですが、中間構文と同じく、いまだにそのメカニズムがよくわかっていません。たとえば「This book is easy to read.」という文では、readの目的語が全体の主語になっています。「This book is easy to read it.」とは言えない。これってすごく不思議じゃないですか。このreadは他動詞なのに、本来必須とされている目的語がなくなって、しかもその目的語が文全体の主語になってしまうという点が、多くの言語学者の興味をひいています。

 

生成文法のなかでは『移動』という重要な概念があって、要素はある位置から別の位置に移動します。代表的な例として「He broke the vase.」の受動態は「The vase was broken.」ですが、vaseが目的語の位置から主語の位置に移動したと生成文法では考えます。『移動』には、先ほどのような目的語が主語の位置に移動するタイプのほかにもう1種類あります。たとえば「John broke the vase.」のthe vaseが疑問詞のwhatに変わると、「What did John break?」のようにwhatは主語よりも前の位置に移動します。前者の主語の位置に移動することをA(エー)移動、主語ではない別の位置に移動することをĀ(エーバー)移動と呼んでいます。tough構文がA移動なのかĀ移動なのかは、なかなか難しい問題なんです。一見、目的語が主語の位置に移動しているので、A移動のようなんですけど、A移動とは違う特性をたくさん示すので、A移動ではないと今は言われています。ではなぜ変則的な移動をするようになったのか、それを歴史的に見てみようという研究です。

 

メジャーな研究対象を取り上げるのは採択率に影響するんでしょうか

確かに競争率が上がって採択されにくくなる面もあるし、注目されているので採択されやすい面もあると思います。私の研究で言うと、中間構文やtough構文は共時的に研究されることがほとんどで、通時的な研究はすごく少ないので、研究対象はメジャーだけど、研究方式がマイナーであるというところがウリになっていますね。


研究対象や研究方法の妥当性を知ることができる貴重な機会

科研費の申請をする一番大きな理由はなんですか

研究をしていくうえで、自分の研究対象や研究方法が妥当であるかについては、大学院生の時は指導教員がいるので、いろいろと指導してくれるんですけど、研究者として独立してやっていこうと思ったときに、なにかしら他人の目が入る、他人の評価が得られるというのはすごく貴重な機会だと思っています。学会発表や論文投稿にも同じことが言えると思いますが、そっちにはあくまでも完成品を出すので、まだアイデアの段階で方向性の良し悪しなどの評価がもらえるのは本当に貴重だと思います。自分だけではどうしてもフラットな目で見ることが難しい時がありますし。

 

科研費は、採択されれば同じ分野の研究者が評価してくれたということになるので、その方向性で進めていけますし、もし不採択だったとしても、その方向性がマズいということがわかるので、方向修正をする、どこを変えるかもう一度考えてみる、仮説を立て直してみる、などいろいろなことができるので、いずれにしても研究は進むんですよね。

 

申請書を書くのは大変ですか

私の場合は普段から研究しながらアイデアをまとめていくスタイルで、申請のためにゼロから作るわけではないので、それほど大変だと感じることはないですね。いろいろなアイデアを形にして申請書のベースに載せていくという作業をするという感じです。

 

工夫している点はありますか

学会発表の時と同じようなわかりやすさで書くことを心がけています。学会発表は1回しか耳に入ってこないし、どんどん先に進んでいってしまうので、一度引っかかってしまうと、もうその次はわからなくなって、たとえ同じ分野の専門家であっても理解できないことが多くなります。論文なら何度も読み返したり戻ったりできるんですけどね。なので、自分で学会発表する時はなるべく引っかからないようにわかりやすく発表しているつもりですし、科研費の申請書もわかりやすい言葉とわかりやすい表現で書くように心がけています。

 

英語を学習する目的が変わってきている

日本の英語教育についてはどう思われますか

明治時代以降、日本が英語学習に力を入れてきたのは、科学技術を発展させるために海外の情報を正確に取り入れる必要があったからなんですよね。論文をしっかりと読むことで最先端の研究技術を理解して、それをもとに自国の技術をさらに発展させることが目的で、そのために日本では『英文法』ができました。その後、先人たちの努力によって、日本の国力が増したことで、母語のみで多様な学習や研究がある程度できるようになりました。

 

発展途上国と言われる国は、自国で科学研究ができないことが多いですよね。私が以前勤めていた大学の医学部の留学生は、自国で医学を勉強するためには英語ができないと不可能だと言っていました。彼らにとって英語学習の目的は非常にはっきりしていて、専門的な勉強をするためには絶対に必要だからなんです。英語を習得すること自体が勉強のスタートラインになる。日本はそれとはかなり状況が違っていて、専門的な勉強や研究もかなりの程度まで日本語のみで行うことが可能ですよね。であれば、日本における英語教育の一番の目的は何なのかを今一度ちゃんと議論すべきだと思います。今は翻訳機もありますし、海外の方とコミュニケーションを取るということだけを目的にするのは、もう無理がありそうですよね。国際的に通用する人材の育成というのは、具体的にどうしたらよいのかということも議論が必要だと思います。それを踏まえたうえで、日本ではどんな英語教育をすべきかを考えていかないといけませんね。

 

 

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