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研究成果トピックス-科研費-

かかわりの力がいじめや不登校をなくす

曽山和彦(教職センター・教授)

公開日時:2022.10.11
カテゴリ: 自尊感情 ソーシャルスキル 中1ギャップ グループアプローチ 学校不適応予防 かかわりの力 人間関係づくり

研究情報

期間

2017~2019年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

17K04888

課題名

教師が日常的に活用できる「かかわりの力」育成プログラムの開発

期間

2021~2023年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

21K02559

課題名

教師が日常的に活用できる高校生の「かかわりの力」育成プログラム開発

取材日 2022-05-17

東京都や秋田県の養護学校などでの教員経験が豊富で、生徒指導・教育相談、特別支援教育が専門の教職センターの曽山和彦教授にお話を聞きました。

かかわりの力を育みたい

科研費でされている研究を教えてください

2017年に初めて採択された科研費は、小・中学校をメインに学校現場における「かかわりの力」についての研究です。発達障害のある子がいても、うまくいっているクラスはたくさんあります。そのクラスの子供たちには「かかわりの力」があって、それがあればいろいろな問題の火が収まります。いじめや不登校も同様に、かかわりの問題と言えます。「かかわりの力」が弱いと、友だちを傷つけるようなかかわり方をしたり(いじめ)、友だちとかかわること自体をしなくなったり(不登校)、ということが起きてきます。このように、いじめや不登校の問題は「かかわりの力」の問題である、と考えたのがそもそもの発端で、「かかわりの力」を育むために学校でできるプログラムを作ろうと考えました。今の学校現場は非常に忙しくて、教員もすごく疲弊しているので、こういうのがいいですよと伝えてもなかなか実行することは難しい、わかっていてもやれない、じゃあ、プログラムを作ろうとなりました。

 

そのプログラムは、週1回10分の「〇〇タイム」が主です。毎日は大変ですが、週1回10分だけの遊びのような「〇〇タイム」ならできそうですよね。かかわりの花火を打ちあげる感じです。子供たちは遊んでいる感覚ですが、教員はねらいをもって行うというのがポイントです。子供たちは、各教科の授業のなかでペア学習などを行うことがあります。その時に、「〇〇タイムのようにやってみよう」と伝えるとパチンとスイッチが入ります。この「〇〇タイム」と「各教科のペア学習など」の2本柱からなるプログラムを「スリンプル(スリム・シンプル)プログラム」と呼んでいます。このプログラムの導入により、不登校がゼロになったり、いじめが減ったりと全国各地で具体的な成果が生まれています。

 

そこで、次は高校版のプログラムを作成しようというのが、2021年からの科研費になります。大学の授業でも同じように実施して大きな手ごたえを感じていたので、高校でも絶対に有用なはずだと思うのですが、高校には大きな壁がありました。高校は大学受験を控えていることもあり、どうしても一般的な学習に重きが置かれます。そのため、こちらから研究協力を依頼しても導入に前向きなところは少ないです。

 

高校版は小・中学校版に比べて大きな違いはありますか

大きな違いはありません。ただ、高校生はもう大人なので、これは遊びではないと説明をします。大学生でもそうですが、そうしないと「なんでこんなくだらないことをやるんだ」と言われてしまいます。ただ、せっかくなら楽しみながらやってほしいので最初からトレーニングをしますよとは話しません。ゲーム的にプログラムを実施した後に、これはただの遊びではなくてトレーニングだったということを伝えます。他人を褒めたり認めたりすることでソーシャルスキルトレーニング、すなわち人付き合いのコツであるスキルの育成をしているのだと話します。また、プログラムを振り返る作業によって、自分や他者へのエンカウンター(出会い)を活動のなかに混ぜ込んでいると伝えます。

 

ソーシャルスキルに加え、自尊感情も重要です。みんな自信がないんですよね。自分で自分を認めるのはとても難しいです。ソーシャルスキルと自尊感情の2つが身につけば「かかわりの力」が育まれたと捉えられるのではないかと思います。プログラムを実施していると自然にそれらの力がついてきます。ただし、即効性はありません。じわじわと効いてくる「漢方薬」のようなプログラムです。教育においては即効性のあるものはすぐ効かなくなってしまいます。

 

高校版もしくは大学版ではどんなことをされるのですか

ペアになって1分間のスピーチをしてもらいます。スピーチと言うと、前に立たされて話すことが頭に浮かぶようで、トラウマになっている学生も多いのですが、ペアで話すことによって、相手も真剣に聴いてくれるし話しやすいということで、とても楽しんでいる様子がうかがえます。大学の授業では、テーマは毎回「この1週間のエピソード」で固定しているため、何を話すか考えてこられるので、みんな気楽に臨めているようです。また、学生からはスピーチが楽しめるようになったという声や、最初は30秒しか話すことができなかったけれど、今では1分間ばっちり話せるようになったという声が届くようになりました。

 

小・中学校のプログラムは完成しましたし、大学ではすでに実施しているので、これで高校のプログラムができれば、小学校から大学まで一貫した「かかわりの力」育成プログラムができあがることになります。それを目指しています。


名城大学へ恩返しがしたい

科研費に対する思いはいかがですか

私は東京や秋田の養護学校などで教員をしていた経験が長く、その後に名城大学に採用されました。その際、恩師に「科研費申請は大学教員としては当たり前の役目」と言われたことが大きいです。採択されるかどうかの問題ではなく、まずは申請するという教育を受けたというところでしょうか。加えて、研究と教育の場を与えてくれた名城大学に恩返しをしたいという気持ちも大きいです。私の科研費申請が、名城大学の科研費申請率や採択率を上げることに繋がれば、少しは役に立てているのではと思っています。「駅伝の名城」だけでなく、「研究の名城」としても、もっとアピールしたいですよね。

 

そのため、準備に多くの労力はかかりますが、科研費には欠かさず申請しています。採択のハードルはなかなか超えられませんでしたが、不採択になっても審査結果が通知されるので、それを参考にして修正を重ねました。初めて採択されたとき、研究者として認められた!という思いが一気に押し寄せました。ものすごくやる気になります。厳格な審査を通って認められたわけですから、研究者として自信になりますし、自分がやっている研究の背中を押してもらえた気分になります。その一押しの効果がすごいです。

 

コロナ禍での研究活動はいかがですか

私は学外で活動することが多くあります。講演や校内研修の機会が主ですが、コロナ禍でかなり活動が制限されました。そこで、全国一斉休校のあった令和2年度前半、教員も疲弊しているし、自分も研修ができない、ということで、現場で自由に使ってもらうために研修動画を配信し始めました。もちろん対面研修が一番よいですが、こういう研修スタイルもありだなと感じています。現在、動画は150本に届きそうですが、最終的には300本まで到達したいと考えています。

 

コロナ禍で研究はやや足止めを食いましたが、いつまでもできないことを嘆いても仕方ないので、自分のモチベーションをどうやって上げていくかを考えました。目に見えない力が背中を押してくれたのではないかとも思います。Zoomなどの操作方法だけでなく、動画配信をすることで撮影や編集のスキルは格段に上がりましたし、編集するために自分の映像を客観的に見返すことで、普段の授業のスキルがどれだけ上がったかもわからないほどです。「ピンチはチャンス!」と改めて学びました。


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