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研究成果トピックス-科研費-

申請書で夢が語れる!

柳田康幸(情報工学部・情報工学科・教授)

公開日時:2022.10.04
カテゴリ: バーチャルリアリティ 嗅覚提示 空気砲 渦輪

研究情報

期間

2015~2019年度

種目

基盤研究(B)

課題/領域番号

15H02741

課題名

空気媒体による触・嗅覚提示を用いた非視覚型拡張現実感の基盤技術

期間

2020~2023年度

種目

基盤研究(B)

課題/領域番号

20H04233

課題名

クラスタ型デジタル空気砲による香り空間制御技術の研究

取材日 2022-04-12

領域の黎明期からVR(バーチャル・リアリティ)研究に携わり、五感の中でも実現が難しい「においの遠隔提示」に挑戦し続けている情報工学部・情報工学科の柳田康幸教授にお話を聞きました。

においをピンポイントで飛ばす?!

科研費でされている研究を教えてください

私はずっとVRを研究してきていて、最初のころは主に視覚提示に取り組んでいました。関西の研究所にいた時に、「メディア技術を五感で提示する」というミッションがあり、『嗅覚、なんかにならないか?』と言われたことが始まりです。1年くらい頭を悩ませて「その人だけに感覚刺激を与えること」=VRなので、それを「におい」でできないかと思いました。

 

視覚提示1つを取っても、ゴーグルを被って映像を見せることだけがVRではなく、スクリーンを使って立体視するとか、プロジェクションマッピングも関連技術になります。そういう風に、ユーザー側が装置を着けるのではなく、ユーザーは何も着けずに環境側に仕掛けがある、『ある一点だけでにおいがするって面白いよね』となって、『においって飛ばせないの?』と発展しました。

 

いくつか方法を考えた中で、一番有望だなと思ったのは、「空気砲」を使うことでした。わっかの形で飛ばしたにおいを「そこ」だけに提示する、ということを始めました。横並びになった2人のうち片方にペットボトルから線香の煙を飛ばしてみたら、その人しかにおいを感じず、隣の人はまったく感じませんでした。完璧です。ただ、においは鼻より上に打っても感じないので、顔を狙うだけではダメで、かなりの精度が必要なことも分かりました。

 

やってみると次から次へと問題が出てくるので、やり始めるとなかなか引っ込みがつきません。この一歩ずつ解明していくプロジェクトというのは、『ここまではできました』『次はここまでやります』といった感じなので、実は科研費、特に基盤研究の性格と非常に相性がいいんです。その点でも科研費にはとてもお世話になっていますね。

 

嗅覚というのは他の五感に比べて研究が進んでいるのでしょうか

嗅覚は従来解明が遅れていた分野で、最近になって急速に進歩しているというイメージです。1991年にコロンビア大学のバックとアクセルが、マウスはにおいを最初にキャッチするセンサーを1000種類持っているということをつきとめました。現在、ヒトのセンサーは約400種類が見つかっています。ただ、この400種類のセンサーがそれぞれ単一のにおい物質に対応しているわけではなくて、しかもにおいのする物質は数十万種類存在するのではないかと言われているので、汎用的なにおいセンサーやディスプレイが開発されるのはもうちょっと時間がかかりそうだと思っています。私の研究は、「提示するにおい」があったとしたら、それを空間的にどうしたらいいのかという方向を探求しています。


踊ると絶対に雨が降る村?

科研費に対してはどんな風に挑まれていますか

もちろん不採択になることもあるんですが、だいたいそういう時には『ここがまずかったな』ということの察しがつきます。そこをきちんと直せばぐんと通りやすくなります。私も2020年度に研究基盤(B)に採択されていますが、その前には不採択を受けているんです。反省点をしっかり踏まえて戦略を練ると通ります。

 

不採択となっても無駄にはならないんですね

以前所属していた研究所で、たくさんファンドを取っていた先輩に、『すごいですね!どうしたらそんなに通るんですか?』と聞いたら、『取れるまで出すんだよ』と返ってきました。「踊ると絶対に雨が降る村」ってありますよね。「なぜ必ず雨が降るのか、雨が降るまで踊るからだ」という。あれと同じです。私も見習おうと思いました。

 

科研費を応募するにあたって工夫されていることはありますか

やはり、審査側もその分野そのものの専門家ではない人が多いので、その上で面白いと思ってもらえるものでないといけないと思います。生真面目な説明も大事ですが、要するにどういうインパクトをもたらすのか、の方が審査側は興味があると思います。

 

科研費の良いところはありますか

科研費は研究者にとってありがたいシステムだと思っています。他の公的研究費や外部資金などは完全に研究計画通りに進めなければならないものが多く、管理のオーバーヘッドも大きいのですが、そもそも科学技術の研究というのは思い通りにいかないことが多いので、そこが悩みどころになります。その点、科研費は懐が広くて、『やってみた、でもこの方法ではうまくいかなかった』となっても、それ自体を実績とすることができるので、本当にありがたいと思っています。ただ漠然と失敗したのではなく、たくさんある可能性の中から方法を選び、きちんと検証した結果それではダメだったと分かった、ということは有益な知見ですよね。

 

科研費を申請することで自分の中で整理できるという部分もあるのでしょうか

そこはあると思います。科研費申請シーズンに書類に向き合って、人にどうやって説明しようかと考えていると、それが自分のやりたいことを考える時間になるんです。やはりどうしても日々の授業や事務仕事などに忙殺されてしまうので、自分ができたことだけじゃなく、これから何をやろうとしているのか、何を目指しているのかを説明するいい機会なんだと思います。それを考えることで、目の前のことだけじゃなく、研究者として自分は何をやっていきたいのかが明確になっていきます。学生にもよく言っていますが、アウトプットというのは重要ですね。

実はこのちょっと面倒な申請書類、研究計画なんかを書くのが好きなんです。夢を語れるというか、『こういうことがやってみたい』ということが書けるので楽しいです。

 

社会への成果還元、社会実装についてのお考えを聞かせてください

例えば、コロナにかかって酸素吸入が必要になった場合、マスクは苦しいし肌に接しているところが荒れたりかぶれたりもしますよね。この時に、何も装着しないで酸素を届けられれば役に立つのではないかと思っています。息を吸っている時に届けないと意味がないので、呼吸に同期して吸うタイミングに合わせて、効率良く酸素を届けるシステムが作れるのではないかと考えています。

 


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