研究活動ニュース
2023年10月25日(水)に「令和5年度第1回 名古屋市蓬左文庫講演会【のぞいてみよう、名工のお仕事~『伊藤満作家資料』の魅力~】」が名古屋市東区の徳川園ガーデンホールで開催され、本学から理工学部・建築学科の米澤貴紀准教授が登壇しました。
名古屋市蓬左文庫とは、尾張徳川家の旧蔵書を中心とした和漢の優れた古典籍を所蔵する公開文庫です(蓬左文庫WEBサイトより)。所蔵する資料は主に尾張徳川家に伝来した古典籍ですが、昭和25年に名古屋市に移管されて、以降は尾張名古屋ゆかりの資料も受贈しています。本学建築学科の伊藤三千雄元教授が寄贈した「伊藤満作家資料」も後者にあたります。建築文化史・建築技術史が専門の米澤准教授は、この資料に含まれる諸文書や図面を調査・整理し、目録の作成に取り組んでいます。本講演では、資料全体の概要と調査の状況や成果が紹介されました。
米澤准教授は初めに「この資料には簡単な目録が付けられているものの、そこに掲載されていないものもたくさん含まれていて、その数は現時点ですでに300を超えている。最終的にはおそらく400程度になると思われる。これを整理して完全な目録を作成し、閲覧したい資料に誰もがたどりつけるようにすることを目的に研究を進めている」と話しました。その後、実際の資料の写真をスライド投影しながら詳しく紹介していきました。
紹介された資料は、①図面②絵葉(えよう)の原寸図③木寄帳(きよせちょう:建物を作るために必要な部材の情報を集めたもの)などの工事関係の書類④手紙⑤さまざまなメモや写し⑥木割(きわりちょう:寺社建築の設計方法)を記したもの⑦パンフレットや建物の写真など、非常に多岐に渡っていました。また、⑤のメモのなかには、『植物の種をいつ蒔いたか』『医学知識の用語の意味』『日本書紀に出てくる建築に関係する神様の名前』『武術書の写し』など、一見すると建築にはまったく関係なさそうなものもたくさん含まれているそうです。米澤准教授は「おそらく建築というものは『建物を建てるだけ』ではなく、その周囲のことにも熟知していないといけないのではないか。興味の広さが名工という評価を生む腕前に繋がっていたのかもしれない」と話しました。
ほかにも「昔の大工は10分の1、もしくは20分の1といった縮尺を好むので、残っている図面は巨大なものが多く扱いが大変」「江戸時代の大工は1枚の図面に必要な情報を収めて描いたので、異なる部分で切断した面が組み合わせて描かれていたり、正面から見えないはずの部分が透けて描かれていたりしていて、非常にユニーク」「明治時代には鉛筆が使えるようになった。それと同時に消しゴムで消せるようにもなった」など、バラエティーに富んだ米澤准教授の説明を、聴講者はとても興味深そうに聴き入っていました。
米澤准教授は最後に「みなさんにも現物をぜひ見てもらいたい。早く展覧会が開催できるように調査を進めていきたい」と話し、講演会は終了しました。
関連リンク
名古屋市蓬左文庫
徳川園
https://www.tokugawaen.aichi.jp/