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- 「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」研究成果について<第3回>(薬学部・奥田知将)
本学では新型コロナウイルス感染症という未曽有の危機に立ち向かうため、2020年度に「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」を創設しました。2020、2021年度に採択された4プロジェクトの研究成果をご紹介します。
<採択時の様子>
「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」に薬学部の2件を選定
https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_23801.html
「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」 2021年度も薬学部の2件が選ばれる
https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_26546.html
最後となる第3回は、2021年度にプロジェクトが採択された、薬学部の奥田知将准教授に伺ったお話をお送りします。
プロジェクト名:
「在宅COVID-19治療を実現する吸入siRNA粉末製剤の開発」(2021年度)
- 粉末微粒子の製造に用いる液体噴霧器
今回の研究は、新型コロナウイルス感染症の治療として、粉末微粒子を入れた吸入器を吸うと、粉末微粒子が気流で舞い上がって肺の中に送られるシステム、いわゆる吸入粉末剤の開発になります。新型コロナウイルスに作用する核酸が分解されることなく、目的の場所まで送り込まれるようなシステムを作ることを目指しました。
まず、ナノ粒子についてお話をすると、ナノ粒子は一般的に100ナノメートル(nm)以下の直径の粒子で、1ナノメートルは、1メートルの10億分の1の長さになります。ナノ粒子は、ナノ粒子よりも大きい粒子とは異なる特殊な機能を発揮する場合があります。その機能を生かして、メッセンジャーRNA(mRNA)という体内に存在する核酸を使った新型コロナウイルス感染症のワクチンが実用化されました。今後も、ナノ粒子を応用した医薬品の実用化はますます加速していくと思います。
smaill interfering RNA(siRNA)という別の核酸があるのですが、新型コロナウイルスのRNAを強力に切断して破壊することができるので、新型コロナウイルス感染症の治療薬として注目されています。ナノ粒子化したsiRNAを肺の中へ効率的に送るために、siRNAとsiRNAをナノ粒子化する成分を粉末微粒子に封入することを考えました。
ナノ粒子を粉末化するには、まずあらかじめナノ粒子を調製して、その後に粉末化するという手順が取られることが多いのですが、粉末化したナノ粒子を再度水に溶かすと、元のナノ粒子が形成されないことがよく起こってしまうのがネックです。そこで、粉末化の時点では必ずしもナノ粒子は形成されている必要はなく、あくまでも核酸が機能してほしいのは肺のなかなので、粉末が溶解した時点でナノ粒子を形成するものを作成すればよいと考えました。成分を混ぜ合わせた混合溶液を一気に粉末化して、溶解したときに均一性の高いナノ粒子を形成するような処方や条件を再適合しようと試みました。
特に今回力を入れたことは、従来、粉末微粒子は全体のだいたい10%くらいしかナノ粒子成分を含むことができず、残りの90%は肺の奥まで到達することに適した粉末微粒子の性質を得るための成分(添加剤)が入っていました。それでも動物実験では効果が表れているので、活性はかなり高いのですが、ヒトへの応用を考えたときに、もう少しナノ粒子成分の割合を上げられるような条件を確立できないかと検討しました。
また、siRNAとナノ粒子化のための成分は最適な比が決まっているので、ナノ粒子成分の割合を増やすと、必然的に肺到達に適した添加剤の割合が減って肺到達性が下がってしまうため、高含量製剤化に適した添加剤を探索しました。今まではその添加剤にロイシンという疎水性アミノ酸を使っていたのですが、siRNAやナノ粒子成分が高含量でも優れた肺到達性を達成できる新たな添加剤を発見し、特許申請が完了したところです。
現在も国内外の大学・企業と共同研究を進めています。製剤化したsiRNAを投与する動物実験で、肺組織中で安定して長く滞留することができるという結果を得たので、さらに検討を進めている段階です。
まとめると、今回の研究の成果は、1つ目はsiRNAとナノ粒子化のための成分が高含量であっても、優れた肺到達性を達成できる新たな添加剤を見つけたこと、2つ目は高含量であってもsiRNAとナノ粒子によって得られる遺伝子発現抑制効果がちゃんと維持できたということ、3つ目はsiRNAは通常かなり分解されやすいのですが、ナノ粒子化したことによって肺組織中でsiRNAの滞留性・安定性を高めることができたということになります。
今後も私たちはさまざまなウイルスの脅威に襲われることが予想されますが、この脅威にも対応可能な医薬品開発の基盤技術として確立することができるよう、引き続き研究を続けていこうと思います。
(取材日:2022-06-22)
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