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「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」研究成果について<第2回>(薬学部・打矢惠一)

公開日時:2022.10.28
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本学では新型コロナウイルス感染症という未曽有の危機に立ち向かうため、2020年度に「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」を創設しました。2020、2021年度に採択された4プロジェクトの研究成果をご紹介します。

 

<採択時の様子>

「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」に薬学部の2件を選定

https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_23801.html

「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」 2021年度も薬学部の2件が選ばれる

https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_26546.html

 

第2回は、2020年度にプロジェクトが採択された、薬学部の打矢惠一教授に伺ったお話をお送りします。

 

プロジェクト名:
「宿主の免疫力強化による感染予防に関する研究」(2020年度)

 

まず、わたしの研究から説明すると、ウイルスというのは、感染した宿主の細胞内で増殖します。その細胞内でのウイルスの増殖を抑制するという研究を主にしています。図を見てもらえればわかると思いますが、人の身体のなかに「病原体」が入ったときに、「病原体」の方が強ければ天秤のバランスが崩れて発病しますし、「免疫」とバランスがとれていれば、たとえ「病原体」が体内にあっても発病しないということになります。この概念に基づいて実験を行い、どのような免疫が有効なのかを解明しようとしています。

 

 

次に、今回のプロジェクトについてですが、新型コロナウイルスと言うのは、ほかのウイルス感染症と基本的にそう変わりはありません。ウイルスに感染するとウイルスが細胞内で増殖します。この増殖が病原体の毒力と関係があって、増殖を許してしまうと発病してしまいます。そこで、免疫が細胞内でのウイルス増殖をどのように抑制しているのかということを調べました。抑制する方法は2つあるのですが、1つは自然免疫、もう1つは特異的免疫で、一般には獲得免疫と呼ばれているものです。ワクチンを打つと特異的な抗体が体内にできて、その抗体がウイルスと結合することによって、ウイルスの細胞表面への結合を阻害することができます。ウイルスが細胞内に侵入できなければ、増殖することはできません。これが獲得免疫と呼ばれているものです。

 

一方、ワクチンを打っていない人のなかに、感染しても発病する人と発病しない人がいます。比較的若い人は発病しにくいと言われていますよね。ということは、強い自然免疫を持っているということになる、獲得免疫である抗体を持っていなくても自然免疫力があれば、発病しないということになります。その「免疫力」はいったい何かということを調べました。

 

ウイルスの細胞内での増殖を抑制しているメカニズムは、感染した細胞から出る1型インターフェロンと言われる物質に関係があります。免疫を担当する細胞やウイルスに感染した細胞が1型インターフェロンを産生することによって、細胞内でのウイルスの増殖を抑制しています。ということは、この1型インターフェロンが産生されればよいということになりますよね。ただ、やはり、産生量には個人差がありますし、新型コロナウイルス自体が1型インターフェロンの産生を抑制しているという報告もあるので、新型コロナウイルス感染症においては、特に1型インターフェロンは産生されにくくなっています。そこで、1型インターフェロンを産生するような物質を見つけて、それを投与することによって、ウイルス感染症を予防できるのではないかと言う発想を持ち、研究を進めました。

 

私は、元々サルモネラ菌の研究をしていたのですが、サルモネラ菌の表面には線毛と呼ばれる細かな毛のようなものがあります。菌が体内で増殖するためには、体内に入ったときにどこかに付着したうえに定着しなくてはいけません。その時にこの線毛が役に立ちます。そのため、多くの細菌がこの線毛を持っています。この定着に関係する菌体の表面に存在する線毛由来のたんぱく質のなかで、1型インターフェロンの産生につながるようなものはないか調べました。すると、BcfDやFimHと呼ばれるたんぱく質が細胞表面の受容体に結合して、細胞内のシグナルの伝達経路を活性化することで、1型インターフェロン(IFN-β)を多く産生することがわかりました。また、どういった受容体に結合して、どのようなメカニズムでIFN-βを増やすのかも解明することができました。

 

実用化に向けては、実際にBcfDやFimHを用いて動物実験を行う必要があります。自己の免疫と同じ働きをするのだから、身体全体にウイルスが増殖してしまってからでは遅く、感染して少し発熱したあたりで、できるだけ早く投与することを想定しています。今はあくまでも細胞レベルでの話なので、今後は効果的な投与方法は経口なのか注射なのかをはじめ、動物実験でいろいろと見極めていく必要があります。

 

採択されたプロジェクトは終了しましたが、もちろん今後も研究を続けていきます。このたんぱく質は新型コロナウイルスに特異的に作用するものではなく、ウイルス感染症全般に作用するものなので、今後未知なるウイルス感染症が発生した時にも有効だと思います。新たなウイルスが出現したときに、ワクチンができるまでにどうしても時間が必要です。自己免疫を高めるシステムを1つの治療法として確立しておくことができれば、ワクチンができるまでのギャップを埋めるような治療として、非常に有効となるのではないかと考えています。

 

(取材日:2022-06-20)

 

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