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<レポート>「ナノテラス」を活用した「昆虫発生学」の新観察法の試み(2025/6/20)

公開日時:2025.06.20
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農学部・生物資源学科の武藤 将道 助教が、2025年6月に栃木県で開催された日本節足動物発生学会で、「昆虫発生学へのX線マイクロCT観察法の導入に向けた試み」と題し、「ナノテラス」を活用した「昆虫発生学」の新観察法について発表しました。

 

ナノテラス(NanoTerasu)について

 

「ナノテラス」は、東北大学青葉山新キャンパス(宮城県仙台市)に建設された世界最先端の放射光研究施設です。この施設では、放射光と呼ばれる非常に明るく強い光を用いて、1メートルの10億分の1というナノのレベルで物質を観察することができます。

名城大学と東北大学は、2019年にそれぞれの特色や教育研究資源を生かして相互に連携協力し、自然災害等の減災研究や「ナノテラス」を活用した先端研究等、卓越した学術研究を通した人材の育成や教育の充実に寄与することを目的とした、包括連携協定を締結しています。本学は「ナノテラス」のコアリションメンバーとなっています。

ナノテラスの詳細はこちら

 

「ナノテラス」を活用した「昆虫発生学」の新観察法の試み

 

昆虫発生学は、昆虫がどのように発生・成長していくかを研究する分野で、その解明には卵の中の胚(幼虫の前段階)の構造を詳しく観察・記録する必要があります。昆虫発生学の研究には光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いるのが一般的ですが、とくに胚の内部形態の観察には試料作成に多くの手間と時間を要するため、研究者を悩ませています。

武藤助教は、この問題を解決するため、「ナノテラス」のX線マイクロCT(コンピュータ断層撮影)を使って、昆虫類の胚発生の観察がより簡便に行えるかどうかを検討しました。

X線マイクロCTを用いた新観察法の実験は、昆虫食の素材の一つとして注目されているフタホシコオロギの卵や生まれたばかりの1齢幼虫を用いて、2024年12月4日にナノテラスで行いました。

 

装置に試料(コオロギの胚)をセットしている武藤助教

 

「第61回日本節足動物発生学会」での発表(20250607)

 

実験で得られた結果と考察を「第61回日本節足動物発生学会」で発表しました。

 

左:コオロギの胚(ステージ12-13期:無固定)、右:コオロギの胚(ステージ20-22期:固定)

 

従来の観察法では、試料を固定したのち、樹脂やパラフィンなどに包埋したうえで薄くスライスし(切片作成)、さらに切片に染色を施して観察するため、採卵から胚の体内構造データ取得までに1週間以上の時間と多大な手間を要していました。しかし、X線マイクロCT観察法では、包埋や切片作成のプロセスを得ることなく、直接、試料(固定の有無にかかわらず!)にX線をあてコンピュータ断層撮影をおこなうことで、1サンプルあたり20分程度で内部構造データの取得が可能となり、大幅な時間短縮を実現できました。とりわけ、従来の研究手法では不可能な「生きたままの」サンプルの内部形態データを「非破壊」で得られる可能性が示されたことは、今後の昆虫発生学研究の進展において大きな収穫でありました。

一方で、現状では、固定の有無にかかわらず、従来の手法で得られる画像データと比較して解像度が低く、個々の細胞や細胞膜、胚膜といった微細構造の明確な識別は困難であることや、後期胚や1齢幼虫に関しては三次元構築像に気泡の混入にともなうアーティファクトがみられるという課題も確認されました。

今後、試料調製法や測定条件のさらなる最適化を進めることで、高解像度画像の取得が期待されます。

 

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