研究成果トピックス-科研費-
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運動を楽しむことで豊かな人生に
香村恵介(農学部・准教授・教養教育)
- 公開日時:2022.10.31
- カテゴリ: 子ども 体力・運動能力 プレゴールデンエイジ 幼児 身体活動 加速度計 toddler 行動観察
研究情報
期間 |
2018~2021年度 |
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種目 |
若手研究 |
課題/領域番号 |
18K13139 |
課題名 |
自立歩行を開始した1-2歳児の加速度計を用いた身体活動および座位行動評価法の確立 |
期間 |
2022~2024年度 |
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種目 |
基盤研究(C) |
課題/領域番号 |
22K02421 |
課題名 |
運動発達の見える化を可能にする簡便な幼児の運動能力測定法の開発と効果検証 |
取材日 | 2022-04-20 |
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幼少期の子どもたちが心身共に健康で運動好きになることを目指して、子どもの体力・運動能力や身体活動量に関連した研究に取り組んでおられる農学部・教養教育の香村恵介准教授にお話を聞きました。
母子手帳に記載される内容に
科研費で今まで行われていた研究を教えてください
子どもの身体活動に関する研究で、今もデータ分析を続けています。簡単な背景として、この研究は2000年代後半あたりから世界的に数が増えてきた、わりと最近のトピックになります。研究が進んでいるアメリカやカナダでは、より低年齢の子どもの身体活動に関するガイドラインや、「運動」に特化したものだけでなく「座りがちな行動」に関するガイドラインなども確立されています。一方、日本では3歳未満の子どもの身体活動に関するガイドラインはありませんし、研究データも存在しません。まず、その基礎データを取るところから取り組もうと思いました。
名城大学に赴任する前のことですが、初めて採択された科研費で行った調査は、3歳未満の子どもと両親56組に加速度計を7日間装着してもらうものでした。まだ研究を始めたばかりでフィールドがなかったこともあり、リクルートには非常に苦労したため、データとしては十分とはいえませんが、3歳未満の子どもの低強度と中高強度の身体活動を日本で初めて計量化したものになりました。
この調査では、母親が座っている時間が長いと子どもも長く、父親が定期的に運動していると子どもは逆に座りがちであること、そして、保護者の運動に対する意識と子どもの身体活動の量に関連は見られないことが分かりました。これを受けて、「運動しましょう!」と啓発をして保護者の意識をあげてもあまり意味がないのかもしれない、それよりも、保護者が一緒に外で遊んだり外出したりしやすい環境を整えることが重要なのかもしれないと思うようになりました。
ただ、ここで問題になったのは、ベビーカーに乗っていたり抱っこされていたりしても、加速度計のデータ上では運動として感知されてしまうことでした。まずはこれを正確に測ろうというのが、2018年度からの研究です。
加速度の生データ、つまり、実際に子どもが動いている映像と、加速度計の波形をAIで分析すると、その時に実際にどんな行動をしていたか判別できるようになります。この方法が画期的なのは、生データを解析するので、加速度計の機種が異なっても比較が可能になる可能性があることです。今までは加速度計の機種によってデータに相違が生じることがかなり問題だったんです。これで状況に応じていろいろな加速度計を使用できるようになるので、参加者の負担も軽くなると思います。
解析には非常に時間がかかるため、まだ分析結果は出ていないのですが、終了後、自治体と連携して大規模な調査を実施したいと考えています。ベビーカーやショッピングカートを使い過ぎると何か発達に影響するのか、子どもにとって影響はないのか、そのあたりが気になっているのですが、それを調べるためにも、まず身体活動を計量化する技術が必要だと思っています。
研究を始めたきっかけはなんですか
元々はアスリートをサポートする仕事をしていました。国体選手や実業団選手のデータを測定してトレーニング指導をしたり、動作解析をしてフォーム改造を提案したりするような仕事です。とても楽しかったんですが、一部の人をサポートするだけでなく、みんなが運動を好きになる手伝いをしたいと思うようになりました。世の中に運動が嫌いな人がいるのはなぜだろうとも思いました。
また、子どもと触れ合う機会が多くなるにつれ、子どもたちがみんな運動好きで活発だったら、将来健康的な社会になるんじゃないか、子どもには心も身体もたくましく育ってほしい、未来がある子どもにかかわる研究をすれば、日本も世界も豊かになるんじゃないかと感じていました。
今後の研究予定について教えてください
今は社会連携センターの協力で、ある自治体での調査を計画しています。一度実績を作ればほかの自治体も動くと思うので、いずれは子どもの身体活動について全国調査が実施されるという流れにしたいですね。この年代の子どもの身体活動は、言語の発達や認知機能、もしかしたら非認知機能の発達にも関係しているかもしれません。活動的な子どもを育てることは重要だと認知されれば、子どもの活動量が落ちないように国としても力を入れないといけなくなりますよね。全国調査が実施されれば、国全体の意識も変わりますし、ガイドラインもできると思います。母子手帳に身体活動についての項目が記載されるのが目標です。
あと人生で何回応募できるんだろう
科研費の申請作業は大変ですか
実は、申請書を書いているときが一番楽しいんです。研究費を得られたらこんなこともできるなーと思いながら書いているので、夢を語れるようなものですね。実際に研究費を動かせるようになると、自分が思い描いている社会に近づくきっかけにはなっているという実感が持てます。なので、書くことは全然苦じゃないですし、むしろ楽しいです。
逆に申請しないとやりたいことがやれないという感覚があります。自分の人生で何をしたいかを頭において3,4年間の研究計画を考えていると、あと人生で何回応募できるんだろうと思います。あと10回も絶対ないと思いますし、自分がこういう社会にしたいな、こうなったらおもしろいのにな、と思っていることを実現できる数少ないチャンスですよね。いくら社会を変えたいと思っていても、やはり「人」「モノ」「お金」を集めないといけませんし、お酒を飲みながら夢を語るだけでなく、自分の力で少しでも社会を変えたいという思いが強いですね。
どんな社会にしたいですか
不特定多数の人が集まるイオンモールで健康習慣の取り組みを始めていて、空き店舗を使ってレクリエーションスポーツを体験できるイベントを開催しました。子どもが運動を気軽に体験できる場の提供を目指しています。「運動やスポーツは楽しいよ!」と啓発するだけじゃなくて、社会自体をアクティブにする、いたるところにスポーツの入口があったり、運動楽しいなと思う仕掛けがあったりする社会にしたいですね。
子どもは身体の使い方を教えなくても、外でいっぱい遊ぶことで勝手にいろんな身体の使い方を学んでいきます。逆にその時期にいろんな遊びをせずに、小中学生になって運動しようとしてもうまくできなかったら、絶対スポーツなんて楽しくないと思うんですよね。いろんな遊びをしておくと、いろんなスポーツを楽しめる選択肢を潰さないでいられます。自我が芽生えてきた頃になんでもできる状態にしておいた方がその子の人生を豊かにできるんじゃないかと思っています。
関連リンク
- researchmap
https://researchmap.jp/kkeisuke - 科学研究費助成事業データベース(2018-2021)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K13139/ - 科学研究費助成事業データベース(2022-2024)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K02421/