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研究成果トピックス-科研費-

微生物の未知なる可能性

細田晃文(農学部・生物環境科学科・准教授)

公開日時:2024.06.07
カテゴリ: 銅還元微生物 バイオミネラリゼーション 銅耐性遺伝子 銅リサイクル 嫌気性細菌

研究情報

期間

2020~2022年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

20K05407

課題名

鉱物廃材の再資源化を指向した銅還元細菌の育種と銅還元機構の分子生物学的解明

期間

2023~2025年度

種目

基盤研究(C)

課題/領域番号

23K04654

課題名

銅耐性・還元細菌の育種による銅鉱物廃材の再資源化を目指した研究

取材日 2024-04-24

微生物の機能、特に微生物を利用して金属のリサイクルなどに取り組む研究が専門の農学部・生物環境科学科の細田晃文准教授にお話を聞きました。

 

 

不採択が続いた科研費

採択されるまで何度もチャレンジされたんですよね

はい、ずっと申請し続けていました。でも全然通りませんでしたね。学生時代に学振(日本学術振興会)の特別研究員をさせてもらったり、指導教官の申請を手伝ったりしていて、そうやって研究費を得られるとわかっていたので、なんとかして取れたらいいなと思っていました。また、科研費に採択されると、研究として公的に認められたことになりますし、論文に記載できることもあって、ずっとチャレンジしていました。

 

もうあきらめようと思ったことはなかったんですか

落ち続けて「もうイヤだな」と思ったことは、もちろんありましたけど、1年経つともう1回やろうかっていう気持ちになるんですよね。具体的に何がダメだったのかを一生懸命分析して、自分の研究のどんな面を見せたらいいのか、見せる先にはどんな人たちがいるのか、を念頭に置いて、どんな書き方をすべきかをいろいろ試していました。何回もチャレンジしていると、書きすぎもダメだけど、足りなさすぎもダメだなというのがわかってくるし、概略やイラストはかなり気合を入れて作らないといけないし、申請内容にもちゃんと合致していないといけない。何回も何回も自分で見直して考えていました。結果としては不採択でも、その作業は今でも自分の糧になっていると思います。

 

ただ、不採択が続いて、もらった評価も良くなかった時に、これじゃあダメなんだ、この分野じゃないんだと思って、踏ん切りがつきました。どこに出すか、だれが見ているかということを、もっと意識しないとダメだったんじゃないかと。私は元々「鉄酸化細菌」の研究をしていて、科研費は微生物や生物、農業化学などの分野に申請していたのですが、10年近く採択されませんでした。そこで、自らの研究と一番マッチする分野だけど、その分野のなかでは自らの研究が盛んではないところを探しました。

 

そんな時、2019年くらいだったと思うのですが、『鉄酸化細菌のことをやっているなら、福岡で開催される国際学会に参加しないか?できればそこで少し話がしたい』というお誘いのメールが突然来たんです。詳細を見てみると「バイオハイドロメタラジー」という、微生物を使って金属生産や金属処理をしようという分野の国際学会でした。当時、その学会には所属していなかったんですが、せっかくなので国際学会には参加してみました。急だったので、発表はできなかったのですが、そこでたくさんの人と出会って、彼らが申請している分野を調べたりして、今の分野に落ち着いて、そこでようやく採択されました。

 

面識のない研究者から突然連絡が来たんですか

そうなんです。あとで調べたら名高い研究者だったのですが、当時はまったく面識がありませんでした。経緯は今でもわからないのですが、以前に別の国際学会で「鉄酸化細菌」の話をしたことがあったので、そこからかもしれないですね。先日は、中高生向けの学問・大学選び支援サイト『みらいぶっく』からも、突然連絡があり、研究内容を掲載していただきました。

 


 

みらいぶっく | 学問・大学なび | 河合塾
<地球・資源システム工学>
微生物による金属還元
『微生物の力で金属をリサイクル。最終目標はレアメタル回収』
https://miraibook.jp/researcher/k23240

 


 

ほかにも、海外のジャーナルに有料で掲載してもらったインタビュー記事を見た人から、電話やメールをもらうことがあったので、研究について積極的に発信することはとても重要だなと思っています。

 

 

微生物を使って金属をリサイクル いずれは宇宙へ?!

科研費の研究内容について教えてください

微生物は自らが生き残るために金属を使います。微生物はエサを食べた後に残る電子を細胞の外に排出したいんです。微生物もヒトも細胞の中に電子があるとイヤなんですよ。だからどこかに電子を吐き出そうとします。人は呼吸しますよね。酸素が必要だから呼吸するんだということは一般的によく知られていますが、それはエネルギーを作り出したときに発生した余分な電子を酸素に渡して、身体のなかから消してもらうためなんです。これを「好気性」と言います。一方、微生物には「好気性菌」だけでなく、酸素以外に電子を渡しても良い「嫌気性菌」がいます。そのなかに金属に電子を渡して、自ら増殖する菌がいます。この時、電子を受け取った側である金属にも当然変化が現れます。具体的に言うと、イオンがイオンではないものになったり、少し違う金属に変化したり、溶け出す場合もあります。その変わった形が、私たちにとって都合の良いものになればいいなという視点を持って、特定の金属との関係がよさそうなものを探しています。

 

なぜ電子があるとイヤなんですか

「なぜ」という疑問に対する答えは「見つかっていない」というのが実際のところですね。この世界はバランスが取られていて、プラスがあればマイナスがあるんですよ。細胞の中にあるプラスは、エネルギーの元になるようなものに変わって、どんどん使われるので、マイナスだけが余ってしまいます。そうするとプラスとマイナスのバランスが崩れてしまって、それはとても都合が悪い。地球中のいろいろなものを構成している元素はすべてプラスとマイナスがバランスを取ってできています。この安定した環境が私たちの世界を形作っているんです。

 

この研究に注目されたのはなぜですか

2000年代に電子を金属に渡せる微生物がいるということがわかってきました。電子が電極に渡されて回路を通れば電流が流れるので、それを応用して「微生物燃料電池」を作るという研究が進みました。一方、元々の金属を還元するという部分についてはあまり注目されてきませんでした。でも、私は還元する金属が何でもいいのであれば、廃棄物を使ってもいいよねと考えたんです。

 

金属のリサイクルというと、それまでにも鉄などで試みられていたんですが、CO2排出量や使用するエネルギー量の多さという大きな課題があって、現実的ではありませんでした。たとえ1%でも排出量を減らせられればすごい!と製鉄業界では言われていたので、微生物を使うことを考えました。微生物なら高温も高圧も不要で、ある程度マイルドな環境でリサイクルすることが可能になります。ただ、反応のスピードが非常に遅いので、時間がすごくかかるんです。でも、それもSDGsの機運が高まっている今なら、世のなかとの相性も良さそうな感じがしますよね。微生物が金属のリサイクルに関与できれば、つまり、時間はかかるけれど、大量の廃棄物を微生物で良いものに作り変えることができれば、これは可能性がありそうだと思って、研究を進めています。

 

「微生物燃料電池」の研究は進んでいるんですか

そうですね、たとえば、有機物がたくさん含まれている生活排水に微生物を投入するとします。そうすると、微生物が有機物を食べてくれて、水がきれいになって微生物が増えます。増えたときに生じる邪魔な電子を使って、電気を生じさせることが可能になります。その電気を水処理に使えば、水だけでなくエネルギーそのものがリサイクルできるので、実用化を目指した研究も進められています。ただ、水処理にはある程度の規模が必要なので、電極が大きくなるにつれて抵抗が大きくなってしまって、電流が流れにくくなってしまいます。そもそも微生物の出せる能力は限られているので、通常の電気を使用することに比べると能力は落ちてしまう。その辺りが実用化に向けた大きな課題ですね。

 

私が取り組んでいる研究も原理は同じなんですが、違う視点を持っています。そのきっかけは、在外研究員としてオーストラリアに滞在していた2017年に、いろいろな人たちと話をするなかで、金属を微生物でリサイクルできるようになれば、宇宙空間でも有効なのではと考えたことでした。今、火星に人類を送ろうという計画がありますが、火星に資材を送るだけでもとても大変ですよね。でも、酸素がない場所で微生物と鉱物だけあれば金属が作れるとなったら、すごいことですよね。そういうことに将来つながっていけばと考えています。ほかにも、金属で汚染された環境をキレイにするというようなことにもつなげられないかと思っています。

 

研究の進捗状況はいかがですか

銅を微生物に還元させるには、銅に対する耐性を微生物が持っていることが必要です。銅は殺菌力が強くて、その濃度に微生物が負けてしまうので、銅に強い微生物は今まであまりいないと思われていたんです。でも、もしかしたらと思って、最初は半分遊びくらいの気持ちでやってみたら、そこそこの濃度に耐えられて殺菌されないギリギリの微生物がいそうだとわかってきました。また、研究室で所有しているカビのなかに、銅の濃度を上げても死滅しないものがあったので、そのメカニズムを解明できれば、耐性のない微生物を遺伝子操作して能力を高めてやることができるかもしれないと考えました。目指しているのは、メカニズムを解明して、関係している遺伝子を見つけるということと、見つけた遺伝子をどの微生物に注入するのがベストかを決定するということです。実験は難航していますが、いろいろな知見が溜まってきているところです。

 

 

誰も気づいていなかったことに気づいて常識が覆った

この分野を研究しようと思ったきっかけはありますか

大学に入って、遺伝子の勉強がおもしろいなと思ったのが最初ですね。それまでは化学と物理しか勉強していなかったこともあって全然知らなかったので、とてもおもしろく感じたんですよね。あとは、微生物は目に見えないのに、ひょっとしたらすごい能力があるかもしれないというところも魅力的に感じました。

 

親が大学教員だったこともあって、元々ドクターコースまで進もうと考えていました。当時は、同じ種類の微生物は、特定の条件がそろったときにだけコミュニケーションのようなことをしているというのが常識でした。私もその辺りがおもしろいと思って、大学院での研究を進めていたのですが、ある日ふとシャーレ(微生物を培養するためのガラス製の平皿)を見たら、微生物が複数いるような気がしたんです。そこで実際に調べてみると、やっぱり微生物が複数いてコミュニケーションを取っていることがわかりました。研究室の誰も気づいていなかったことに自分だけが気づいた、という一種の成功体験があって、そこで初めて研究者になりたいと思いましたね。

 

今後やりたいことはありますか

リチウム電池は今さまざまな場所で活用されていますが、いずれ廃棄物になりますよね。それをどう処理していくのかは今後の課題なので、銅のノウハウを生かして、リチウムにもチャレンジしているところです。理工学部の土屋文教授や神藤定生准教授などからお声がけいただいて、一緒に分析などもしているので、いずれは分野を横断したプロジェクトを立ち上げて、企業とも一緒にやっていきたいと考えています。今は少しずつそれに向けて準備しているところです。

 

 

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