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- <開催レポート>カーボンニュートラル研究推進セミナー「分子挙動の理解と天然物合成」(2024/11/15)
名城大学薬学部 分子設計化学研究室は、2024年11月15日(金)に名城大学八事キャンパスにて、カーボンニュートラル研究推進セミナーを開催しました。当日は薬学部の教員や学生を中心に約60名が参加しました。
(開会のあいさつをする薬学部・坂井健男准教授)
近年、病気の原因の新規特定や、新しい病気の発現などによって新たな創薬分子への需要が高まっています。また、地球温暖化が進むなか、従来は熱帯地方中心に発生していた病気が、日本に上陸する恐れも示唆されています。気候変動に対する対抗力としても、創薬力の向上は日本にとって重要な課題です。複雑で巨大な構造を有する天然有機化合物は、創薬モダリティ1)としても注目されており、天然物の効率的な合成方法の開拓は、創薬分子創製への第一歩とも言えます。講師の名古屋大学大学院 創薬科学研究科の横島 聡教授は、数多くの複雑天然有機化合物の全合成2)を達成している、日本の合成化学者の第一人者の1人です。
「分子挙動の理解と天然物合成」と題されたセミナーでは、まず、導入として、haliclonine Aの全合成やpremyrsinane diterpene類の全合成研究の実例を通じて、得られた副生成物を丁寧に解析した上で、分子の3次元構造、軌道、電子状態などを綿密に考察する、すなわち、分子挙動の理解への努力が、研究を進める上で重要であると強調されていました。ついで、最近の主な研究例として、macleanineおよびmelognine提唱構造の全合成に関する紹介がありました。前者では、橋頭部イミンを鍵中間体とした戦略が、後者では大環状化合物からの2度の双極子付加環化を経由する戦略が、それぞれ披露され、いずれも、分子挙動の理解によって、極めて複雑な化合物の全合成が、短い工程で効率的に達成されていました。
また、横島教授は「『天然物の全合成は既知の反応の組み合わせに過ぎない』とよく言われるが、『既知』ではないし、『過ぎない』わけでもない。また、『天然物の全合成』は確かに『反応の組み合わせ』ではあるが、『反応を組み合わせれば合成は可能』というものでもない。化合物の構造を綿密に考察し、反応機構を理解しながら、天然物合成を進めていくことが大事であり、その中で起きる予想外のことから、新たな疑問が生まれてくる」と、天然物全合成研究の学術的な意義を強調して、講演を締めくくりました。
講演後には、予定時刻を越えて熱のこもった多くの質疑応答が交わされていました。
用語の説明
1)創薬モダリティ
医薬品の作られ方の基盤技術の方法や手段、またはそれに基づく医薬品の分類。
2)全合成
最小単位の原料から、複雑な構造を持つ天然生物活性物質(天然物)そのものを人工的に化学合成すること。対して、生物の代謝などの生体反応を利用して天然物を得ることを生合成という。
3)副生成物
化学反応において意図した反応とは異なる反応によって生成した物質。